雑記帳

2011年3月4日

【東京都知事選】(ブログ)

「殴り合い」の都知事選を期待する

 来月の東京都知事選の興味は、独特な個性で存在感を示した石原知事の後継に誰がなるかである。スーパー首都の知事は、どこにでもいるような知事では務まらない。場合によっては国政を動かすくらいのパワーが求められる。だが、現在立候補が予定されている人物は、いかにも頼り気がない。例によってお笑いタレント出身の候補も加わった、ゴチャゴチャ選挙になりそう。
 それと今回注目したいのは、不確定要素はあるが、名古屋市長の河村氏の動きだ。地域政党「減税日本」の旗を掲げて都議選に触手を伸ばすようだと、既成政党の勢力バランスが崩れる可能性は否定できない。既に各地で河村氏に同調する動きが表れており、都知事選への影響も考えなければならないだろう。

▽存在感出せない民主、自民

 いち早く出馬を表明したのは共産党の元参院議員団長の小池晃氏だ。次いで居酒屋チェーンのオーナーとして政府審議会委員も務めた渡辺美樹氏が続き、さらに神奈川県知事の松沢成文氏が急きょ名乗りを上げた。自民党の丸山和也氏も立候補の準備を進めているらしい。丸山氏は弁護士出身で、仙谷氏が官房長官だったときに中国の漁船衝突問題について電話で交わした「私語」を巡ってひと悶着を起こした人物だ。
 政党レベルでは小池氏を除き、民主、自民、公明3党は独自の候補者は出しておらず、推薦候補も明らかにしていない。告示が迫っているのに、こんな状態で選挙戦に入るとは思えないが、これも政権交代とその後の政治の混迷がもたらした帰結なのだろう。
 都民はもとより、国民が期待を込めた知事選になりそうもないのは、顔ぶれを見れば分かるとおり、抜きん出た候補者が見当たらないことと、各氏にこれといった個性・魅力が感じられないからだ。敢えて話題づくりを探そうと思うなら、政権党の民主党と野党第一党の自民党が独自候補も立てられないまま本番を迎え、民主党政権に対する有権者の不信が一段と高まる一方、下野した自民党も相変わらずの低迷から抜けきれない、再起力を失った政党との烙印を押されることだろう。
 つまり、政治に対する国民の不信・不満が、かつてなく表れるということである。

 最もお粗末なのは民主党だ。党内亀裂と国会運営で身動きが取れないのは自業自得だが、まだ執行部が未練がましく追い求めているのが、昨年の参院選でずば抜けた得票で当選した蓮舫氏の擁立である。しかし、蓮舫氏にはその気はない。政治とカネの疑惑が発覚した今では、出たくとも出られない。従って独自候補擁立を断念し(その気配は濃厚だが)、面子を棄てて旧民主党という政治キャリアで付き合いのある松沢氏の推薦に回ることも考えられるが、松沢氏にすれば不人気な民主党が擦り寄ってくれば、せっかくの支持者が離れてしまう。選挙戦術上も、とても乗れないだろう。
 一方の自民も石原現知事の3選出馬を求めていただけに、俄かに態勢立て直しは無理だ。共産党の小池氏は、党勢を立て直すのが精一杯で、知事の椅子を狙う力はない。

▽それぞれに立候補の思惑

 突然名乗りを上げた渡辺氏は、居酒屋チェーンのオーナーというよりも、近年福祉関係事業に乗り出し話題を集めた人物だ。政府機関の委員も委嘱され、マスコミに登場する機会も増えた。
 渡辺氏は「都政に経営感覚を導入したい」と語った。行政に民間の経営感覚を持ち込んで巨大な伏魔殿に新しい感覚を浸透させることは正しい。だが、「経営感覚」とは具体的に何をやろうとするのか。都財政運営のどこに問題があるのか示さないことには、単なるスローガンに過ぎない。企業経営に通じた手腕には見るべきものはあるかもしれないが、巨大な伏魔殿をより透明性のある行政組織にするのであれば、よほどのスタッフを抱えて都庁官僚と、返り血を覚悟で切り結ばなければならない。その覚悟と力があるのだろうか。

 松沢氏が狙う都政への転出もどこかすっきりしない。松沢氏は環境や医療態勢などで都県を越えた広域的な課題を解決するため東京、埼玉、神奈川、千葉の1都3県の「首都圏連合」の強化を挙げた。松沢氏は出馬表明に先立って、石原知事にあいさつの「仁義を切った」という。松下政経塾出身の旧民主党国会議員から神奈川県知事となり、全国知事会でも分権改革の強硬論者の1人で論客としても有名だ。
 分権改革の主張は「地方の政治の仕組みは地方で決める」としてきたが、今度は「東京から日本を変える」と、一段オクターブが上がった。
 だが、神奈川県の人口の903万人の6割強は、横浜、川崎、相模原の3政令指定都市が占める。政令市は地方自治法で、都道府県並みの権限を持つ。知事の権限は強大だが、政令市が3つもあれば、それだけ松沢知事の権限は削がれるとも言える。それゆえの都政への転出という見方を引きずっての都知事選立候補表明だった。
 もう1人困った立候補予定者がいる。前宮崎県知事だった東国原氏が都知事選参戦に強い意欲を見せているから話はややこしくなる。
 「出るか出ないかは白紙だが、あらゆる選択肢は残している」などと思わせぶりなことを言いながら、ちゃっかり選挙事務所を用意して動き回っている。よせばいいのに、どこかのテレビ局が追い掛け回したりしている。タレント出身だから、人の気をそらさないようにすることや、どうすればメディアを引き付けることができるか先刻、承知の上で行動している。宮崎県知事の4年間は、特別の用事がない限り、せっせと東京に戻って盛んに自己PRして回っていたことは皆もが知っている。
 東国原氏は、知事時代に地方の弱さをいやというほど味わったという。地方分権は中央で、その任に当たらないと前進しないというのが持論だ。県知事として宮崎県を「全国銘柄」に格上げし、県の広告塔としてその責任は十分果たした。そして、分権改革でも中央と地方の格差是正を具体的事例を示しながら訴えた。
 だが、都知事選に挑んで何をなそうとするのか。いずれマニフェストを掲げて、「東京をどげんかせんといかん」と都民に言うかもしれない。

▽できない約束はするな

東京は人口1305万人、予算規模は一般会計で7兆円規模に達する。大阪府の約2倍、愛知県の約3倍、鳥取県の約20倍である。海外と比べると、財政規模はフィンランドとほぼ同額だ。東京がいかに巨大都市であるかが分かる。都庁は、霞が関に匹敵するくらいの能吏がそろっている。
 1300万都民に何を訴えるのか。率直に言って、東京で分権を声高に訴えても票にはならない。都市問題や福祉・医療、教育、環境問題など、東京が抱える大都市問題は途方もなく複雑で大きい。
 都知事選のポイントは、大都市問題に各立候補予定者がどのような処方せんを持って臨むかである。そしてそれに説得力はあるのか、それを都民がどう判断するかに尽きるだろう。過去の選挙世論調査でも明らかなように、特定の支持政党を持たない都民は、ほぼ4割強いる。単純に計算すれば、その数は600万人近い。浮動票の流れ次第で、知事選の行方は決まる。
 劇場型選挙を否定はしない。各立候補者は、それこそ死ぬ気になって殴り合いながら大東京の処方せん、針路を示してもらいたい。現政権みたいに、できもしない約束はしないことだ。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)