雑記帳

2011年2月18日 

【退陣要求の狼煙】(ブログ)

◎首相辞任の流れが加速

 菅首相の辞任を迫る与党内の動きが表面化した。小沢系16人の議員(比例単独)が民主党・無所属クラブから離脱、新会派を届け出たことは、党執行部にとって想定外の「事件」だった。小沢強制起訴後の政局の波乱は予想されたが、これほど明確な動きが表れるとは意外だったのではないか。首相にとってさらに衝撃だったのは、最後の頼りとした社民党が来年度予算関連法案の骨格部分に賛成できないと言い出したことだ。もはや、菅首相が目指したねじれ国会での多数派工作は破綻したと見て間違いない。
 関連法案が成立しなければ、予算案が成立しても予算執行はできない。そんな事態になれば、菅内閣は国民の生活を守れないと落第の烙印を押される。16人は離党せず党内にとどまって、民主党が国民に約束した「国民の生活が第一」の政策を実行すべく今後、行動を展開するという。国会は予算案・予算関連法案の審議どころではなくなった。菅内閣の命脈に危険信号が灯ったと言えるだろう。

問題は、何故このタイミングでの会派離脱なのか、である。
 党内に残りながら会派離脱という言い分には説得力はない。政党人の職責からも疑問だ。首相や岡田幹事長は苛立ちを露にしながら処分は考えないと言う。これも民主党を主導するリーダーとしての見識と自信の欠落である。
 国会日程は、3月の年度末に向けて最大の懸案である来年度予算・予算関連法案を処理しなければならない、気の抜けない時期に差しかかっている。にもかかわらず、与党民主党の稚拙な国会対策で野党の攻勢は強まる一方だ。いまだに政権慣れしない民主党執行部への不信感は、事あるごとに膨らんでいる。内閣にとって予算案を滞りなく仕上げ、国民の生活を守ることが第一義であることは論を俟たない。ところが菅政治は、いまだにその任務に真摯に取り組もうとして風には見えない。
 「国会の熟議」「国益を第一に考えよう」と言いながら、具体的に政策を示したことはないし、熟議の気配もない。
 予算案が喫緊の最重要課題と言いながら、嫌疑不十分な小沢問題にしがみつき、いずれが重要事項なのか分からない。その時、その時の状況に併せて「予算」と「小沢問題」を使い分ける手法は、本気で問題処理をしようとしているのか国民には見えなかった。こうした流れが、今回の造反を招いたのである。
 党常任幹事会が小沢氏の党員資格停止処分で一応、党としてのけじめをつけた。処分の内容がいいか悪いかはともかく、執行部は小沢問題にしがみつく必要はなくなったのだが、16人の会派離脱が再び問題をぶり返してしまった。離脱組は新年度予算執行のカギとなる関連法案について「造反」をにおわせている。さらに自らを「先遣隊」と称して、さらに党内からの造反議員の出現を示唆している。

小沢氏の処分は党のけじめどころか、さらに激しい党内対立を噴出させることになった。以前にも指摘した通りの展開なのだが、今日の事態は十分予想されたにもかかわらず、党内の意思疎通の悪さと執行部の浅慮が造反の気配を感じながら、事前に手を打たなかったための当然の帰結だ。
 もはや、菅・岡田執行部が模索してきた多数派工作は意味を持たない段階に入った。
 首相や幹事長が揉み手で擦り寄った社民党は、週明けにも法人税減税や成年扶養控除縮小を盛り込んだ税制改正反対を正式に機関決定する。普天間移設関連の予算案についても既に反対を申し入れており、衆院での3分の2議席を確保しようと狙った社民党の取り込みは不発に終わる。さらに共産党も子ども手当反対を正式に決めている。予算案とは直接関係ないが、鳩山前首相が沖縄の地元紙のインタビューで、普天間移設を辺野古に戻した理由とした米海兵隊の「抑止力」を「方便」とした発言が、野党を刺激し国会に新たな火ダネとなったばかりだ。こうした流れの中で起きた今回の16人の会派離脱だ。もはや民主党は、政権党としての体をなしていない。

今回の造反劇について中央各紙の社説は問題の重要性を指摘しながら厳しい評価を下した。民主党事情に熱心な朝日の社説はなかった。
 「姑息な印象がぬぐえない。いっそ集団離党する方がすっきりする」(読売)、「あぜんとさせられる騒ぎ。16人の行動は奇策どころか禁じ手といっていい」(毎日)、「政権党としての誇りと責任感を失った」(共同通信)といった具合だ。その上で「予算関連法案の修正や、社会保障と税の一体改革などの具体案を早急にまとめ、自民党などとの接点を探ることに全力を挙げるべきだ」(日経)と注文をつける一方で、「熟議の国会を訴えながら、具体策となると全く知恵がない」(共同)と、菅内閣の無策を批判している。

21日からの週明けの国会はさらに緊迫度を増すだろう。菅首相に批判的なグループだけでなく、中間派の中からも首相批判が公然と表れている。首相の首と予算案・関連法案の交換さえ聞こえてくる。菅内閣瓦解のベルが鳴り出した。執行部は造反議員の説得に乗り出したが、そのこと自体が執行部の弱さを示す。第二、第三の造反も予想されるが、次の造反が表れるのは小沢処分を最終的に決める党倫理委員会で小沢元代表が弁明して後のことだろう。16人の扱いで時間を稼ぎながら、世論や野党の動きを見極めて第二のやりを放つことになりそうだ。
 すでに永田町は菅退陣を前提に動き出している。政局は慌しさを増している。
 もはや首相外遊の予定などと、暢気なことを言っている時ではない。一日一日をどう乗り越えるか。その日暮らしの菅内閣となるだろう。命脈が尽きるのも、時間の問題なのかもしれない。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)