政治と行政

【統一地方選のポイント】A

●「地方の反乱」再現も

 第三は、国政の重要課題なのに脇に追いやられてしまった「地域主権」への影響だろう。
 地域主権の現状は、再三、このホームページでも指摘してきたとおり、お寒い限りである。ここで繰り返したくはないが、地域主権改革は菅内閣の重要政策から姿を消したと言わざるを得ない。経済・財政に政権の軸足を大きく変えた段階で、政権奪取の大きな理念であった地域主権は政策の優先度から外されたのだ。
 政権が想定した以上に財政の実体が危機的状況にあったことが分かったからだと言うが、外国為替市場の猛烈な円高に何一つ効果的な手を打たなかったし、市場が対策を催促しても、これに応えなかった。潤沢な財源をもたらすはずだった事業仕分けは政治的パフォーマンスの域を出なかった。無駄の削減も官僚の反論を切り返すことができなかった。言うところの「口先政治」の破綻である。

 元々、地域主権は国のあり方を示す政治の理念である。そのためにどこからかカネを持ってこなければならないわけではない。国会審議の間隙をぬって話を進めることは、野党が地域主権に基本的に賛成なのだから可能だったのだが、政権運営の稚拙さと知恵のなさで出来なかった。
 地方6団体がこぞって求めている地域主権関連3法案は、国会審議の緒にもついていない。地方が特に求める「国と地方の協議の場設置法案」さえ霧の中だ。
 首長たちの中央政治に対する不満・不信は普通ではない。地域主権を言いながら、地方の求めに何一つ応えていないからだ。政権交代の大きな力になった有権者の投票行動に首長たちは危機感を持っている。それ故、選挙後に首長たちが起こすであろう行動は、これまで以上に攻撃的になるだろう。自公政権が地方の反乱で国政選挙に大敗、政権交代につながった悪夢が甦るかもしれない。

●寸断される地方行政

第四は、地域主権とも絡むが、統一選を挟んで政策の継承・中断が地方行政に及ぼす影響である。
 統一選は、地方行政・政策の一時ストップを強いる。選挙は水物だから想定外のことが起こらないとは言えないから、自治体の新年度予算案は、絞った項目だけの骨格予算となる。
6月議会で大幅増額補正となるが、それまではこれといった新規政策はできない。
 さらに自治体を悩ませるのは、ねじれ国会が新年度予算関連法案の成立を危うくしていることである。関連法案が通らなければ地方は動きようもない。民主党政権の誕生で、国民は政治だけでなく国、地方を含めた政策実施面で、かつてない厳しい状況の下に置かれてたのだ。
 ただでさえ、経済は力強さに欠け、景気の低迷を脱しきれないのが現状である。政治の混迷に統一地方選が重なったタイミングの悪さを嘆いていても仕方がないとはいえ、魅力的な政策を並べた民主党のマニフェストは日一日と修正、見直しが行われている現実をどう見ればいいのか、庶民に判断を求めるのも酷というものだ。
 首相が気負って言った「熟議」とは、一体何なのか。ここでも言葉の遊びが表れている。
 さらに問題なのはTPP参加だ。首相はTPPを幕末の黒船に例え、「平成の開国」を国内論議もそこそこに国際公約した。TPP参加は、きれい事ではなく日本経済にもたらす衝撃は大きい。それへの準備がなければ取り返しのつかない事態だって考えなければならない。その時に地方経済への対応が出来るのかも問われる。

●時代の変わり目となるのか

第五は選挙結果が全国知事会など地方6団体の構成・役割にどう影響するかである。
 地域主権の項でも触れたが、現政権に対する不満は地方団体をこれまでのような要請団体から国を質す組織に変えるはずだ。いや、地方団体自体が変わらざるを得なくなると言った方がいいだろう。

 分権改革が本格的になってから、地方団体はそれぞれの立場・思惑を引きずりながら、対する相手を国に絞りつつある。「協議の場法案」に立場を越えて意思統一できたのも、戦う相手を見定めたからだ。
 全国知事会の麻生渡会長(福岡県知事)は今期限りで身を引く。後継に誰が就くかは分からないが、調整型の麻生会長から、地方の言い分をより強く主張する会長が誕生するのではないだろうか。麻生会長の前任の梶原会長(元岐阜県知事)は「闘う知事会」を引っ張った。
 地域主権改革の現状とこれからを考えれば、守りの知事会では物事は動かない。ある意味では、より戦闘的な組織に変わらざるを得ない。それが、地方6団体の盟主としての知事会の役割なのだから。

というのも、前にも触れたが、国と地方の関係に満足しない流れが「大阪都構想」や関西、九州の地域連携の形で表れている。地方団体がこれまでの組織体でいいという訳にはいかなくなっている。中央政治の求心力が衰えている現状を見れば、政治・行政の「地方一揆」が始まったと見るべきだろう。
 そうした流れを国が認識しているのか。霞が関の各府省の権益保持の堅さは揺るがないと思うが、方向性を見失った理念なき政治は、時代の変化に対応しきれなくなっている。
 平成23年の統一地方選は、時代の変わり目を象徴する節目となるのかもしれない。

1125日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」