雑記帳

2011年1月27日

「陽光に誘われて」(ブログ)




鎌倉山から遠望する富士。頂上に雲を抱き、淡い霞がかかったような眺めだった=1月27日

 もう何日雨が降らないのか忘れてしまった。乾燥続きの毎日が、日常生活までをも「乾かして」いるようだ。家の中は「異常乾燥注意報」が出っ放しだし、庭の落葉樹は冬の日差しに裸の枝さらしたまま。だが、ツバキやスイセンの花は精一杯、寒い庭に彩を添えようとしている風である。落葉したままの沙羅や梅の木の傍で、少しばかり緑芽を出し始めたものもある。サンショウの木、ツツジ、サツキも若葉が目立つようになった。

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 久しぶりに小さなカメラをぶら下げて鎌倉山の桜の道や、一つ裏に回った山道を歩いた。さすがにこの時期は観光客の姿はない。見上げると、青い空に綿のような雲が幾つか浮かんでいた。桜の道から幾重にも重なる山々の向こうに眺める湘南の海は抜けるように青い。
 富士山を遠望しながら、のどかな道を歩き続けた。左手に逗子、葉山、右手には藤沢、茅ケ崎、そのずーっと先に富士がそびえる。見慣れた景色だが、見るたびに、どこか違う雰囲気がある。空の色、雲の広がり、木々の青さが、その時々の美しさを変えて見せてくれる。

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 この時期の鎌倉山は、春の装いに誘われる観光客はまだ来ない。観光シーズン前の、静かなひと時を独り占めしているような気分になる。
 鎌倉の歴史を紹介する「鎌倉山の碑」は、鎌倉の生い立ちを記している。この碑のすぐ傍に、急な斜面を造成して完成した瀟洒な店がある。目の前は幾重にも重なる山の向こうに海を望む。テラスに置かれた椅子に座ってしばし、景色に見とれていた。
 景色と静けさに納得しながら腰を上げ、また歩き出した。蛇行する道を車が忙しげに通り過ぎる。車にのんびり走られても困るが、何もこんな道をスピードを上げて走る必要もないだろうに…。

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 明治時代の国文学者で三重県出身の佐佐木信綱の歌碑がある。佐佐木が鎌倉に住んで詠んだ歌は数多いが、私が好きなのは碑の紹介文の最後にある次の歌だ。

 「片瀬の灯江の島の灯のつらなりて此の山の上は月夜なりけり」

 月夜の晩に、鎌倉山から見た湘南の海に寄り添うように片瀬の町と江の島の灯りがつながり、私がいる山の上には月夜が輝いていた―そんな想いで歌を詠んだのではないだろうか。
 かれこれ山の散策は1時間を超えた。厚手の装いだったので家に戻った時は少しばかり汗ばんでいた。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)

(注)散策しながら撮った写真はtwitterの「nobuo_ogata」、写真はhttp://bit.ly/gMk7Ccに載っています。