【ダム事業見直し】

◎反対は自治のうねりだ

(注)「出先機関の統廃合」(11月12日付)参照

 滋賀、京都、大阪、三重の四府県知事が、国土交通省近畿地方整備局が計画する淀川水系の大戸川ダム(滋賀県大津市)の建設に反対、中止を求めた。流域自治体が一緒になって国の計画を拒否するのは異例だが、国にとっても衝撃だった。
 金子一義国交相が、事務当局の判断を超えたダム事業の抜本的な見直しをにじませたことにも表れている。熊本県の蒲島郁夫知事が川辺川ダム建設に反対を表明したのに続く地方の反乱は、事務当局に任せきりだった河川行政が、財政、環境といった政治課題に加えて、国の言うがままにはならない地方自治のうねりの中で表れた象徴的な変化である。
 淀川水系上流に予定される大戸川ダムは、利水、治水、発電の多目的ダムとして四十年前に計画ができたが、水需要が減って三年前に凍結された。ところが国は昨年夏、治水だけの「穴あきダム」に変更して計画を再提示した。

 穴あきダムは、ダムの下部に穴をあけて、洪水時だけ水が貯まるように工夫してある。環境悪化への批判をかわせるとして、近年、このタイプのダム計画が多くなっているという。
 環境重視の滋賀県、財政負担の抑制を狙う大阪府、別の河川改修を急ぎたい京都府など各知事の考えは一様でなかった。その思惑の違いを超えて四府県を結束させたのは、近畿地方整備局の強引なやり方だった。
 有識者に頼んで発足させた淀川水系流域委員会が、大戸川ダムを含む河川整備計画を認めないと意見書を出しているにもかかわらず、整備局はこれを無視した。その上、ダムに反対なら関連する道路整備はできないと通告した。
 そんなことを言われれば、自治体が「圧力」と思うのは当然だ。改正河川法は流域住民の意見を尊重するよう定めているし、自治体の協力なくして建設計画は進まない。強圧的な態度で押し切ろうとするなどは、もってのほかである。

 大戸川ダムは、総事業費千八十億円のうち六百億円を支出済みだ。住民移転を終え、道路整備などが進んでいる。再三の計画変更に振り回され続けた地元住民の声を無視することもできないが、ダムによる治水効果は大きくないといわれる。
 河川改修は国ではなく関係自治体が優先順位を決めるべきで、対策を複合的に進めることが重要と四知事は指摘した。
 一級河川の管理権限を大胆に都道府県に移管するよう地方分権改革推進委員会は求め、麻生太郎首相も国の出先機関の統廃合を指示している。
 国交省はダム建設に固執せず、新たな治水対策を関係自治体とともに考え、国の役割を果たすことを忘れてはならない。

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