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年秋季号 編集長コラム「国と地方」

◎片山総務相への期待

菅改造内閣の目玉は、前鳥取県知事の「片山善博総務相」である。
 改革派知事の一人としてかつての「闘う知事会」で論客ぶりを発揮、古巣の総務省にきつい注文を付け続け後輩たちを困らせた。舌鋒の鋭さは、知事を辞めて慶応義塾大学教授に就いてからますます磨きがかかった。総務省の弱みを突くだけではない。全国知事会の枠から離れた身軽さもあって、「誰のための地方分権改革か」と住民の視点を欠いた知事会の分権要請を容赦なく切り捨てている。地方6団体にとって、「怖い」大臣の就任となるだろう。

 注目したいのは、片山氏が政権の表看板である地域主権改革にどう取り組むかだ。
 まず最初に手掛けるのは持論の住民主権、住民自治を盛り込んだ地域主権改革の段取りだ。前国会で積み残しになった地域主権関連3法案に「片山色」をどう盛り込むかである。
 第二は、足元の総務省はともかくとして、他府省と永田町政治家の出方への対応だ。地域主権改革に欠かせない「一括交付金」「義務付け・枠付け」「出先機関見直し」に、霞が関の反応はきわめて冷淡だ。旧政権時ほどではないが、永田町の反応も予断を許さない。
 第三が全国知事を筆頭とした地方6団体との関係だろう。知事会が政局に敏感なのは、7月の和歌山市で開いた全国知事会議で「参院選総括」が延々と続いたことでも分かる。ようやく手が届きそうになった地域主権改革だが、経済問題でまた遠くに離れてしまいそうな不安にさいなまれている。
 そこにきて、知事会が最優先で求めた「国と地方の協議の場」に批判的な総務相の登場だから、気にするなと言っても無理な話。総務相が6団体との「距離感」をどう取るかも注目していい。
 そして第四は、菅首相が地域主権改革にどれほどの情熱を燃やしてくれるかだ。霞が関、永田町、地方団体との関係も、首相の動き方一つにかかっていると言っても過言ではない。改革の成否は首相次第である。
 6月に政権を引き継いだ首相は、はっきりと「強い財政」にシフトした。「強い経済 強い財政 強い社会保障」は、大敗した参院選と党内を二分した民主党代表選で、さらに比重を増した。円高、雇用情勢の悪化は、否応なしに政府に政策の優先順位を迫っている。
 片山氏は、地方分権を「ライフワーク」と言い切っている。民間出身の同氏が様々な壁を乗り越えて地域主権改革に邁進するための教訓が小泉内閣の構造改革にある。
 小泉構造改革で、片山氏と同じ民間出身で活躍したのが竹中平蔵氏である。竹中氏が経済財政担当、金融担当相として役目をこなせたのは、小泉首相の強烈な政治力がバックにあったからだ。同じことを、菅首相ができるのか、その気があるのかは現時点では何とも言えない。国会の与野党の勢力地図も小泉内閣当時とはまるで違う。
 郵政問題、国家公務員の人件費削減、IT戦略など総務相の仕事は広範囲にわたる。「地域主権」をやっていれば済むわけではない。持論だけでは通用しない。
役割を果たすには政治的な気配りも必要になる。地域主権改革は不透明さを増している。片山氏への期待が大きいだけに、期待に応えるのは容易でない
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(尾形宣夫)