政治と行政

【年頭記者会見】……「心の奥が見えない」B

▼基地問題の不条理をどうする

首相は年頭会見の冒頭で今年を平成の開国元年とし、施政方針でも示した最小不幸社会を目指すと同時に、不条理を正す政治を行うと強調した。不条理について首相は硫黄島に今なお残る遺骨、そしてこのところの若年者の失業問題などを挙げている。
 硫黄島の遺骨、若年者の失業問題は確かに不条理であり正さなければならないが、戦後の最大の不条理は沖縄の基地問題だと言っていい。会見で沖縄の地元紙の琉球新報記者が次のように首相に質問している。

「総理は不条理を取り除きたいという話をされましたが、沖縄に米軍基地が集中することも不条理だと思います。これは(昨年)5月の日米合意どおり(普天間飛行場が)辺野古に移設されたとしても、沖縄に集中する状況には変わりません。総理はこのことについて不条理だと考えませんか。あともう1点、日本全体で受け止め、できる限り負担軽減をという話もありましたが、具体的にどのように取り組めば負担軽減になるのかお聞かせください」
 これに対し首相はこう答えている。
 「戦後に限って見ても、沖縄以外の米軍基地が大きく削減された中で、沖縄の基地があまり減らされなかったことは、私にとっても政治家の一員として大変慙愧に耐えない思いをしている。そういう意味で不条理という言葉で言い尽くせるかどうか分からないが、その一つだと考えている。そういう思いをしっかり持ちながら、私としても沖縄の基地負担を引き下げる方向で、できることを迅速に進めていきたい」

琉球新報記者の質問で沖縄の基地問題が「不条理」であることを首相が認めたわけだが、この不条理を正す処方せんは現状では「辺野古移設」しか見当たらないというのが菅首相らの考えだ。
 首相の頭の中に、「沖縄」が不条理のままになっているという意識が最初からあったとは思えない。首相の話の流れからすれば、不条理は硫黄島の遺骨であり、ロッキード事件にまつわる政治とカネの問題だ。小沢問題の遠因として不条理を使ったことは間違いない。
 ところが、琉球新報記者の質問は、基地問題が不条理であることを首相に認めさせた。首相にとっては唐突な質問だったかもしれない。

 そもそも普天間問題は、自公政権に辟易した国民が実現した政権交代のキーワードではない。野党感覚で披瀝した同党のマニフェストは、ほとんどが実現可能性の低い「青い鳥」だった。その中で日米同盟の根幹となる在日米軍の再編、特にその行方を左右する沖縄の海兵隊基地、普天間飛行場の辺野古への移設は、政権に根を張る重要政策とは程遠い単なるプロパガンダだったのである。
 だから、民主党政権は当初、普天間の「最低でも県外移設」を公言し、旧来の日米同盟関係に楔を打とうと真っ向から挑んだのだ。が結果は周知のとおり迷走を続けた。そして、結局は移設先は辺野古以外にないという醜態を演じ、旧政権当時に合意した「辺野古移設案」に戻る昨年5月の日米合意にたどり着いたのである。
 沖縄県民がこの裏切りに怒ったのは当然だが、政権自体が県民への明確な回答を持ち合わせていなかった。海兵隊の「抑止力」を考える、辺野古以外の選択肢はなかったと今なお釈明を続けているが、沖縄県民の怒りは解けそうにない。にわか政権の陥穽というべきか、未知の政権運営に無策・無能ぶりが露呈し、これが日本外交の基軸となる米国との関係をも危うくした。

▼見えない問題解決の処方せん

首相の口から不条理という言葉が出たのも初めてだが、沖縄基地問題が戦後のわが国の不条理であると首相が認めた意味は大きい。民主党政権にとって「不条理な基地問題」が落とし穴となって、米国を巻き込み日米関係を揺るがす思いもしないような新たな問題が起こらないとも言い切れない。
 民主党政権にとって普天間問題をどう位置づけるべきなのかを問われれば、大概の人は頭を抱えるのではないか。答えを出そうにも出せない。出せないというよりも、普天間問題での迷走をあれほど見せつけられたのでは、位置づけを云々する対象として見ていないからだ。
 だが、この普天間問題は日米同盟の今後を見通す上からだけでなく、基地問題の重圧にあえぐ沖縄県民に民主党政権がどう向き合うかという点で、日米関係と国内問題が複雑に絡み合う忽せにできない問題なのである。

 首相は会見で、普天間飛行場を名護市辺野古に移設する昨年5月の日米合意を踏まえて対処、日米同盟を一段と強化するする考えを示した。同時に、日米同盟の恩恵は日本全体で受け止め、沖縄の過重な負担を軽減するようにしなければならないと強調した。
 だが、年末に開かれた全国知事会議でも明らかなように、各知事は政府がまず方向付けを示すよう動くべきで、それがないまま自治体に対応を求められても応えようがないとの立場だ。

首相は昨年暮れに沖縄を訪ねた際の仲井真弘多知事との会談で、辺野古移設を「ベター」の選択と言ったが、知事は「県内移設はすべてバッド」だと切り返している。財政を使った沖縄振興策とのバランスでどうにか保たれてきた基地問題に対する県民説得は、昨年の知事選、名護市長選・市議選で限界にきたことが明確となっている。
 首相は県民の理解が得られるよう何度でも沖縄に来ると言ったが、県民の目は冷め切っている。訪問の度に、民主党政権に対する県民の不信・不満が渦巻くかもしれない。首相の頭は、春の訪米に向けて日米同盟の深化をどう演出するかでいっぱいのようだ。不条理な基地問題を日米首脳会談で滲ませることができるのか。自ら口にした「不条理」が首相の新たな重荷になることは間違いない。

1115日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」