【年頭記者会見】……「心の奥が見えな」A

政治と行政

▼開国元年の環境整備がない

 首相が会見の冒頭発言で最初に切り出したのはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加問題だった。首相はTPP参加を「平成の開国元年にしたい」と積極的な姿勢を表明した。国内の産業空洞化は、グローバル経済と企業立地条件の優位性を求めて一段と加速している。昨年来の円高が輸出環境の悪化を招き、同時に安価な人件費を求めて海外進出、海外企業買収が近年にない増加傾向にある。
 菅首相が政権を引き継いだ際に強調したのは「強い経済・強い財政・強い社会保障」だった。小沢氏との党代表選をクリアした首相は改造内閣発足に当たって、深刻な雇用情勢を念頭に「1に雇用、2に雇用、3にも雇用」と自らに言い聞かせるように語っている。
 雇用促進のために経済を活性化する、そのための企業の競争力の強化であり、法人税減税という論法になる。法人税減税は来年度予算案で5%減税が盛り込まれている。

首相は「平成の開国」で、貿易自由化の促進と若者が参加できる農業の再生をやらなければならない強調した。元々、経済界は農業市場開放に積極的だが、農業団体はTPP参加は日本農業に「壊滅的打撃」を与えると猛反発している。
 市場開放が当該産業に衝撃となるのは、昭和40年代以降の開放の歩みを見れば明らかだ。問題は市場開放のインパクトをいかに抑え、国内産業を守る対策を取るかだが、首相が言うTPP参加には構造改善が思うように進まない農業をどう守り、体力をつけるかの具体案はない。詰めた論議がないまま方針が示されるのは、昨年秋の参院選で袋たたきに遭った消費税引き上げの提案と全く同じである。
 経済重視に舵を切った菅内閣が国内産業の体質強化を政治的に志向するのは間違いではない。ただし、産業界が内向きになっている現状の打開は、政府が良かれと思う、例えば法人税減税のような環境整備が現実に設備投資の増加、雇用増加につながるかどうか見極めなければならない。だが、残念ながら法人税減税が首相が描くような雇用増大につながる保証はない。そのことは日本経団連の米倉会長が明言していることでも分かる。
 現状のデフレから脱却し、そして名目成長を押し上げることで企業収益を増やし個人消費の拡大と雇用増大につなげることが優先されなければならない。

▼再び持ち出した消費税増税

 首相が「税制の抜本改革」という言葉で、消費税増税のアクセルを踏んだのも年頭会見の意味を大きくした。首相は「社会保障のあり方と必要な財源を議論しなければならないことは、誰の目にも明らかだ」と語った。
 ここで言う「必要な財源」とは、ほかでもない消費税のことである。自公政権が敷いたレールを外せなかった10年度予算と違って、11年度予算案は自前の予算案だ。民主党は当初、予算に隠れた無駄をあぶり出し、特定財源から埋蔵金を搾り出すと気負ったものの、思い描いたような財源は見つからなかった。いや、なかったのである。
 そうした体験もあって昨年半ば頃から、口には出さないものの消費税という亡霊が見え隠れするようになっていた。これを、全く根回しもないまま首相が突如打ち出したのが昨年の参院選直前の消費税増税発言だった。
 92兆円余の来年度予算案はまとめたが、財源の捻出に苦しんだのは一昨年暮れと同じ。それに、2度と使えない特定財源も取り込んでの来年度予算案編成だ。もはや、消費税を禁句などとキレイ事を言えないまで追い込まれていた。

だが、首相はここでも例の「逃げ」を打っている。自民党も公明党も税制の抜本改革・消費税問題で同じような見解を示している。だから、与野党が集まって社会保障を確立していくために財源問題で超党派の議論を開始しようと呼び掛けている。
 何のことはない、自公両党も同じ考えなのだから民主党も一緒に考えましょうという「相乗り論」である。
 もっとも、自公両党は即座に呼び掛けを拒否した。子ども手当、高速料金を放置したままで消費税の論議などは聞く耳を持たないというわけだ。野党とすれば、財源問題で似た考えを持っていたとしても、首相の提案に乗るのは通常国会で最大のヤマ場を迎える来年度予算案審議に応じると応えるのに等しい。内閣の退陣、解散総選挙を迫る野党としては、首相の言い分は論外なのだ。

下旬に予定される通常国会開会は予算案審議はもとより、予算関連法案、それに臨時国会で積み残しになった法案処理といった懸案が山積みになっている。さらに前述した小沢問題に加えて、問責決議された仙谷官房長官、馬淵国交相の去就も国会開会に立ちはだかっている。寸時もゆるがせにできない状況が迫っている。(続く)

1114日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」