政治と行政

【年頭記者会見】……「心の奥が見えない」@

 菅首相が首相官邸で4日開いた年頭記者会見語った内政、外交の基本方針のポイントは

@ 新年度予算の早期成立
A TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加の6月中の結論
B社会保障と税制の一体改革
そしてC政治とカネの問題――である。鳩山首相を辞任に追い込んだ「普天間問題」は、菅内閣でも問題の重さは変わらないが脇に追いやられた。
 首相が中でも最も力点を置いたのは、ほかでもないCの「政治とカネ」だ。政治の浄化を求める国民の声を裏切るようでは日本の民主主義は成り立たないといった趣旨で、いわゆる「小沢問題」に切り込んだのである。今月下旬に予定される通常国会開会の波乱を予感させる年頭会見だった。

▼退路を断った首相の胸の内

「今年を政治とカネの問題にけじめをつける年にしたい」
 首相の言葉は明快だった。そして、小沢氏が政治資金規正法違反で強制起訴となった場合は、
政治家として「出処進退を明らかにし、裁判に専念されるべきだ」と述べている。明らかに離党や議員辞職など、自ら進退を判断するよう促したのだ。
 首相は小沢氏と年末に2度会談している。一度は2人だけの会談だ。会談の中身は明らかになっていないが、小沢氏が自ら進んで国会の政倫審に出ることや政治家としての出所進退を強く迫ったと言われている。年頭会見は、それでも「動かぬ」小沢氏に業を煮やしたのだろう。初めてずばり離党、議員辞職にまで踏み込み、改めてその政治責任を問うた。自ら退路を断ったと言っていい。

 首相が年頭会見という、ある意味では祝賀と新年の道筋を語る場で小沢問題に真正面から切り込んだ理由は三つだろう。
 一つは政権トップとしての自らの指導力を示すことだ。二つには、危機的レベルまで低下した内閣支持率アップ、そして最後が国民の信頼回復を梃子とした野党の分断――である。
 首相の指導力の回復は、政権交代の立役者である小沢氏を切ることによってしか達成できないのは明らかだ。先の党代表選で小沢氏が確保した200票を切り崩すのは至難の業だ。仮に切り崩しがうまくいくとすれば、それは小沢氏の存在を党から排除する以外に道はない。派閥全盛時代ならともかく、今の政局では離党の身で民主党内に影響力を温存させることは不可能だからだ。
 首相の指導力が思惑通り達した場合、国民の菅内閣不信は相当程度薄れるだろうし、逆に内閣支持率の回復が期待できるかもしれない。となると、野党の対応もおのずと軟化せざるをえない。指導力不足が言われるのは自民党にしても同じだ。現実を見る目の肥えた公明党も、無理を覚悟で政権と最後まで対決するとは思えない。

 退路を断った首相の胸の内が功を奏するか否かは即断できないが、首相が政治とカネの問題で語る言葉に当面の戦術はあっても、戦略が感じられない。
 例えば暮れに野党の「たちあがれ日本」に対して工作した連携打診は失敗したし、その前に社民党に送った秋波は、党内論議を詰めた「武器輸出3原則」を踏みにじる内容だった。
 「たちあがれ」は、民主党政権打倒を掲げて発足した伝統的保守の再生を志向するグループであり、社民は憲法9条順守し、普天間問題で政権を離脱した。両党への接近はいずれも、当面する通常国会乗り切りの「数集め」であり、政権の理念・哲学とは相容れない場当たり工作にすぎない。
 さらに政治とカネ問題では、自民、公明、みんな各党とも小沢氏の国会招致は政倫審ではなく、証人喚問としての招致を主張している。首相が小沢氏の「離党」「議員辞職」にまで踏み込んだのは、全会一致を条件とする証人喚問が極めて困難なため、対野党対策として打ち出した政倫審招致を補強する2番目のカードとなるものだ。

民主党はこの13日党大会を開く。現時点では反小沢、小沢両陣営が真正面から向かい合う緊張した大会となるだろう。大会の中身次第では、下旬に予定される通常国会開会にも影響が懸念される。さらに、予定通り開かれたとしても冒頭から与野党激突という異常な国会となりそうな気配が濃厚だ。(続く)

1114日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」