2010年10月19日

【柳腰外交】(ブログ)

◎ウイットに富んだ議論が欲しい

なんとお色気たっぷりなやり取りか、と聞き入った。まさか、国会の論議で「柳腰」などという場違いな言葉が取り上げられるとは思いもしなかった。だが、期待はすぐはぐらかされた。

 それはそうだ。尖閣諸島の漁船衝突問題での日本外交の「腰」の定まらないことに業を煮やして質問する野党議員に、仙谷官房長官が中国に対する「しなやかな」日本の対応を「柳腰外交」と例えたからだ。答弁する仙谷氏は縁なし眼鏡の奥から鋭い目つきで見返すのだから、とてもお色気などとは全く関係はない国会論議である。


 そもそも、「柳腰」とは女性の美しさを例えるもので、国語辞書によれば「細くしなやかな腰つき。または、細腰の美人」(大辞泉、広辞苑)の意味だ。およそ、政治や外交には不似合いな言葉なのだが、事件がもたらすであろう微妙な日中関係をおもんばかって「しなやかさ」を強調したものだ。
 事件が起きて以来、菅内閣の弱腰に批判が集中していた。仙谷氏が言わんとしたのは、「弱腰ではない。しなやかに、したたかに」中国と向き合ってきたとということなのだ。
 収まらない野党側は、不適切で中国に誤ったメッセージを送ると言って撤回を要求したが、菅内閣を実質的に仕切っている仙谷氏が、そうやすやすと撤回に応じるはずもない。

事件が緊迫の度を高めていたとき、菅首相は米国で各国首脳らとの会議に臨んでいた。首相不在で事件対応の仕切りは官房長官の仕事だった。その仙谷氏の腰が折れたのでは、内閣の大きな失点になる。言葉の意味がどうあろうと、仙谷氏には引くに引けない事情があったのである。
 仙谷氏は撤回要求をガンとして受け付けなかったが、外交にかかわる問題で「柳腰外交」は適切でない。同じ漢字文化の国でどう受け止められるか。仙谷氏が言うような意味が通るとは思えない。
 自民党の伊吹文明元幹事長が伊吹派の会合で、「井原西鶴を読んだり、酒井抱一の絵を見ていれば、あの表現は出ない。政治家は経済や法律の知識以上に、教養がにじみ出るような度量を持っていないといけない」と皮肉ったという。
 強持てで菅内閣の司令塔と言われる仙谷氏の、まさしく不適切な発言だった。(尾形宣夫)