【地域主権戦略会議】

◎霞が関の抵抗が浮き彫りになった 

 菅改造内閣の初の地域主権戦略会議が開かれた。
 地域主権改革の動きが本格的に始まる会議だったが、案の定、霞が関の冷めた対応が浮き彫りになっただけだった。菅首相は7日の会議の締めくくりに
人事権の発動もにおわせたが、焦点になっている地域主権関連3法案が臨時国会中に成立する見通しは、なかなか容易でないことがはっきりした。
 なぜ首相が奥の手とも言える人事権にまで言及したのか。その理由は明らかだ。会議の報告が、霞が関官僚の抵抗一色とまではいかないまでも、抵抗の強さがはっきりしたため、このままでは地域主権は絵に描いた餅になりかねないと思ったからである。
 地域主権のこの先が厳しいと思わせたのは、まず、中央が地方を縛る「ひも付き補助金」をなくして「一括交付金」とする問題だった。
 会議で報告された一括交付金化は、来年度予算の概算要求で計上された221件、約33000億円の投資関係補助金のうち、霞が関の各府省が認めたのはわずかに3件にとどまった。金額にしてたった28億円にすぎない。霞が関が、地方をコントロールするのに有効な補助金を手放そうとしないことの表れである。
 出先機関改革にしても、8月の自己点検で国土交通省など8府省が地方に移管と判断したのは、約500の業務のうち約1割止まりだった。
 関連法案のうち地方団体の要望が強い「国と地方の協議の場」設置法案は、野党の協力が期待できそうだから何とかなりそうだが、3法案をねじれ国会の中で与野党協調の「モデルケース」と位置づけたかった内閣の思惑がすんなりといくと考えるのは早計だろう。
 臨時国会は残り3カ月しかない。この間に、一括交付金の内容を決定しなければならず、国の出先機関改革の工程表も策定しなければならない。ところが、前述したように、一括交付金化は事実上のゼロ回答だった。
 ひも付き補助金の一括交付金化と言っても簡単でない。どんな補助金を選び出すのか、さらに地方自治体への配分基準・配分額を決めなければならない。このため戦略会議は、同会議の有識者や関係官庁の政務3役による検討会を設置することにした。

菅内閣が主要政策とする新成長戦略や社会保障改革は、その成果を国民がすぐに実感できるわけではない。マニフェストで大々的にアピールした子ども手当や高速料金の無料化は財源の壁に阻まれて完全実施は不可能だろう。
 このため、菅首相がひねり出したのが改造内閣で片山善博を総務相に就けて地域主権改革を新たな目玉政策と位置づけたのである。
 突き放した言い方をすると、経済・財政に重点を置いた菅改造内閣は財源の壁にぶつかって、鳩山前内閣が改革の「1丁目1番地」とした、地域主権に逆戻りしたと言うこともできる。

政府は8日、円高・デフレに対応する緊急経済対策を閣議決定した。今年度補正予算案を柱とし規模は55000億円、地域活性化や雇用、成長戦略、公共事業の前倒しなどが項目としてあがっている。野党、とりわけ公明党との水面下での折衝が功を奏した。
 ところが、緊急経済対策を待っていたかのように、円高がさらに進み、81円台に乗せた。日本経済の強さが評価された円高ならば好ましいが、現状は世界のマネーが経済の立て直しに四苦八苦する欧米から離れて、取りあえず日本の円に避難しているだけだ。
 ほぼ1カ月前、日本政府は外国為替市場で円高を食い止めようと円売り介入した。このときは日本単独の市場介入だった。この円売り介入に続いて、日銀の金融緩和策、そして今回の緊急経済対策の閣議決定である。日本政府としても、できる手立ては出しつくしたといっていい。
 以前にも指摘したが、単独介入には限界がある。外国為替市場の安定には主要国が連携した協調介入があってはじめて効果が表れる。協調介入をしてもらいたくても、欧米各国は自国経済の立て直しにそれどころではない。協調介入ができないまま円の独歩高が続くようだと、すでに産業界を襲っている円高不況が、一段と深刻さをますことになるだろう。

2010109日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」