【菅改造内閣】

◎片山氏に過大な期待は禁物

 菅改造内閣の目玉閣僚は、前鳥取県知事・慶応大学教授の片山善博総務相である。歯に衣着せぬ物言いは、知事時代もそうだったが、慶大教授になってからは一段と冴え渡った。批判の相手は古巣の総務省であり、自身も所属した全国知事会だ。総務省の政策決定の舞台裏を知り抜いているから、例えば北海道夕張市の財政破綻問題で見られたように、総務省の施策・決定をなで斬りにしている。総務省官僚にとっては怖い先輩の里帰りである。
 同じことは地方団体についても言える。全国知事会をはじめとする地方6団体について片山氏はかつて「総務省の天下り団体」と切り捨て、地方団体が民主党政権に約束させた「国と地方の協議の場」は、「何ゆえに天下り団体を政府の協議相手として法律に位置づけなければならないのか」と、けんもほろろだった。
 国民新との連立の約束である郵政改革についても考え直すよう注文を付けていた。
 片山氏の考えは、ずばり核心を突き聞く者を「なるほど」と思わせるが、言われた方からすれば腹立たしい思いだけが残る。

菅首相から入閣を求められた感想を記者団に聞かれた片山氏は「地域主権改革はライフワーク」「これまでの経緯をよく勉強する」と控え目な言い方をしている。これまでのようなストレートな物言いは控えるということだろう。
 民主党政権の表看板は「地域主権改革」である。首相が会見で明言した改造内閣の柱は「経済」「外交」「地域主権」の3本柱だ。その地域主権を担うのが片山氏である。首相の地域主権に対する意欲の表れとも言えるのだが、果たしてそれがうまくいくかどうかは別問題だ。
 と言うのも、菅内閣は明らかに「経済」にシフトした。不況が癒えないところに持ってきての円高・株安は産業界、とりわけ中小企業を直撃している。首相は「経済」の具体的な中身を「景気、雇用、成長、予算」だと強調した。それらは、一つひとつが想像もつかないくらいの努力・忍耐を要する。10月初旬には始まる臨時国会は経済問題を手始めに、「政治とカネ」も野党はしぶとく衝いてくるはずだ。政府の対応に隙が表れるようだと、国会審議は紛糾は避けられない。
 来年の経済見通しをどう策定するのか。税制改革はどうなる。いずれも、来年度予算編成に欠かせない基本的なものだ。来年度予算案をまとめるに当たって、予算関連法案を作らねばならない。来年1月の通常国会は、法案審議を巡ってさらに緊迫することになりそうだ。
 臨時国会とそれに続く通常国会の状況次第では、民主党内に潜む路線対立が表面化する事態も予想される。

菅改造内閣の今後は、厳しい現実に立ち向かわなければならない。となると、地域主権改革はどうなるのか。菅内閣の政策の優先度から考えると、「経済」に先を譲らなければならないと見るのが自然だ。
 菅首相は6月の発足時に、はっきりと「財政重視」をうたっている。参院選を控えた政治的思惑から国会審議を早々と打ち切り、「地域主権関連法案」を継続審議に回すなど法案成立は過去にない少なさだった。地域主権で言えば、「地域主権大綱」を何とか閣議決定しただけだ。率直に言って、地域主権改革の「アリバイづくり」をしただけで今日を迎えてしまった。

 私は本ホームページで地域主権改革の先行きに悲観的なコラムを度々書いてきた。片山総務相の就任で状況が変わるかと聞かれれば、「そうとはならないのではないか」と応えざるを得ない。というのも、前述したような事情に加えて、片山氏が「議員バッジ」を持たない大臣だということだ。
 同じ民間出身でも小泉内閣の構造改革で知恵袋となった竹中平蔵氏(現慶大教授)には、小泉首相という、強烈な個性とリーダーシップを備えた存在があったことを忘れてはならない。菅首相が片山氏にとって、小泉元首相のような強力な後ろ盾とならないかぎり、地域主権改革は多くを望むことはできない。

10919日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」