【梅雨晴れの三景】

サムライ・ブルーに乾杯

 日本のW杯は終わった。
 サッカー・W杯の南アフリカ大会で日本は南米・パラグアイにPK戦で惜しくも敗れた。120分に及んだ決勝リーグ1回戦は、日本の実力を余すことなく出し尽くした。細かいことをこねくり回しても意味はない。南米、欧州の強豪チームの怒涛のような攻め、そして鉄壁な守りに比べれば足らないところはあるだろう。
 だが、遠い南アフリカから送られてくる映像を見て、「これまでとは違う」と感じたのは、ピッチ、ベンチの選手に一体感があったことだ。スポーツとはいえ、戦いは勝たなければ意味はない。勝負の世界では、きれいごとなど通用しない。
 勝つために各々の選手が全力を出し尽くす。日ごろの激しい練習で体得した業を相手チームにぶつけるだけだ。そのためには選手全員が一丸となって戦いの歩を進めるしかない。この当たり前の態勢が、過去のW杯ならずとも地区予選では必ずしも十分ではなかった。
 それが見事なくらいチームワークを示すことができたのは、監督、コーチはもちろん選手自身が自覚したからにほかならない。初のベスト8入りができなかったことは悔やまれるが、本番前に誰がこれほどの日本の善戦を予想しただろうか。国を挙げて日本チームのプレーに喝采を送り、感謝の気持ちを表した。日本中が熱狂したことは深夜・未明のテレビ放映にもかかわらず、記録的な高視聴率となったことでも分かる。

 とは言いながら、日本の負けに筆者自身は虚脱状態だった。オリンピック、各種競技の世界選手権は数多いが、こんな気分になるのは初めてだ。
 29日深夜からの24時間は、不思議な一日だった。パソコンに向かってキーボードをたたいている今でも、昨夜の緊張した時間が蘇ってくる。
 パラグアイ戦を未明まで見て床に就いたが、正直、熟睡できなかった。早朝、ベットを抜け出しテレビを点けたまでは良かったが、気分が吹っ切れないまま見入ってしまった。こんな経験はもちろん初めてだ。言葉では表しきれないモヤモヤ感が、寝不足の全身にまだくすぶっていた。
 ともあれ、日本中が沸きかえった今回のW杯での日本選手の活躍を心から喜び、乾杯≠オたい。



オンライン野鳥図鑑から

いまだ早春の気分…ウグイス

そんなモヤモヤした気分が薄れ、ようやく元に戻ったのは梅雨の晴れ間に現れた青い空を見てからだ。東京圏は昨夜、所によっては大雨洪水注意報が出される荒れ模様だった。幸い私のところは荒れることもなく、朝から夏を思わせる日差しが周りを包んだ。梅雨のせいで湿度が高く鬱陶しい日が続くが、このところの気温は30度前後で真夏を思わせる。なのに我が家の周りでは、いまでもウグイスが「ホーホケキョ」のさえずりを続けている。

 ウグイスの鳴き声が聞かれるのは早春、「日本の鳥百科」によると春の深まりとともに山に帰って巣づくりをするらしいが、我が家では真冬は別としていつでも聞いているような気がする。家が山の中にあるのだから当たり前かもしれないが、残念ながらいまだにウグイスの姿を確認したことがない。
 メジロ、コジュケイ、セキレイなどさまざまな野鳥が季節ごとにわが庭にやってくる。つい数日前から羽化して間もないキアゲハが飛びだした。黒っぽいナガサキアゲハ、シロオビアゲハの姿も間もなく現れるだろう。アゲハには遠くに飛んでいかない習性があるようで、いつも庭先で優雅な姿を見せてくれる。サンショウの木に幼虫が何匹もついいて、これがいつの間にか羽化して飛び回る。黄緑で柔らかい体の幼虫が、棘の多いサンショウの枝を伝い歩く姿が何ともかわいい。ありのままの自然がいい。

糠喜びはもうごめん…消費税

 W杯の興奮で脇に追いやられていた参院選だが、各党とも党首・幹部のボルテージは上がりっ放しだ。民主党政権のコアだったはずの地域主権改革はどこへやら、菅首相の口から出るのは「財政」「財政」だけである。「強い経済・強い財政・強い社会保障」のためには消費税は避けて通れないと、自民党が主張する「消費税10%を参考にする」と再三明言している。
 「財源不在」のばら撒き政策をこっぴどくたたかれた民主党がようやく財政の現実に気が付いたのだが、消費税引き上げは誠に国民に評判が悪い。「消費税10%を参考」を公約と思ってもらって結構と言っていたが、カナダ・トロントでのサミットを終えた首相は「消費税を論議することが公約だ」とトーンダウンした。
 とはいえ、何とかして消費税引き上げへの理解を取り付けたい。そこで首相が言い出したのが、年収250万円から400万円までの層には税金を全額戻すという。何とも分かりやすい話のようだが、具体的にどうするのか現時点では雲をつかむような話だ。そんなことを信じていいものか。選挙目当ての甘いささやきのような気がしてならない。
 大体、税金を全額還付してしまったら、また政策の財源に穴が開いてしまい、結局は(還付は)できなかったでは済まされない。
鳩山前首相といい、民主党は前言を翻すのを何とも思わないようだ。子ども手当の満額支給も風前のともし火だし、高速料金の無料化も悪評たらたらだから、「社会的実験」の結果どうなるか分かったものではない。「総合的に判断した結果」一部区間を除いて取りやめとなるかもしれない。
 またも有権者の気を引くようなことを言い出して、後で国民が臍をかむことにならないか。糠喜びにならないよう気をつけなければ。
 消費税引き上げ論は菅内閣の支持率を直撃した。党幹部は「前提を脇に置いて」引き上げだけが独り歩きしていると沈静化にやっきだが、戦略・戦術のない民主党の実体をまたまたさらけ出したとしか言いようがない。
 参院選のマニフェスト発表の席上、自ら言い出した「10%参考論」は、財源問題の争点隠しの変化球だったのだろう。財務官僚の土俵づくりが上手だったのか、あるいは前首相との違いを際立たせようとしたのか。おそらく両方とも真実のようだ。
 いずれにせよ、この変化球が明らかなボール球になってしまった。
 消費税問題は、表舞台から降りた小沢前幹事長が連日のように内閣、党執行部を批判し、反小沢と見られる閣僚・党幹部が反論する内ゲバ状態だ。選挙戦のさ中に身内の争いをしているようでは、勝てる選挙も負けるだろう。党幹部が政策面で一部野党との連携可能を言ったのも、参院での過半数確保が難しい現状認識から出ている。内ゲバといい、野党との連携といい、菅政権の内実は極めて危うい。

2010630日)