編集長コラム「国と地方」

◎地域主権冬景色

菅政権がスタートした。首相の所信表明演説は冒頭から最後の「むすび」まで、民主党政権再出発の意気込みを披歴した。「強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現」に力点を置き、「友愛」「いのち」「きずな」といった、昨年秋の鳩山前首相の所信表明演説とは全く異質で現実的な方針を強調した。理念型の鳩山色を排し、実務的な内閣を目指したのである。

各種世論調査によると、最後は発足当初の3分の120%まで落ちた鳩山内閣の支持率が、菅政権の誕生で60%台に乗せるV字型の急回復を示した。今さらながら、歴史的な政権交代を実現した昨年の総選挙で示された民主党期待の根強さを思わないわけにはいかない。

だが、菅政権の誕生で「国のあり方」がどう変わるのか現時点では分からない。具体的には、前政権が改革の「一丁目一番地」と位置づけた「地域主権」の行方である。菅首相は所信表明演説で、確かに「地域主権の徹底が不可欠」と強調した。そして、地域主権は「総論」から「各論」の段階に進む時が来ているとも言っている。その点から言えば、地域主権改革が菅政権の下でも重要課題であることに変わりはない。

とはいえ、改革の前段となる地域主権関連3法案は継続審議となり、地域主権戦略大綱はどうにかまとまったが、今後2―3年先の目標を定めただけだ。政治状況が急変したとはいえ、地域主権改革は間違いなく出鼻をくじかれた。こんなありさまでは、所信表明の文言はともかく、地域主権改革を「心配無用」とはとても言えない。
 その兆候は組閣当日の原口一博総務相の会見にも表れていた。総務相は型どおり地域主権の重要性に触れたが、自らの「原口プラン」に具体的に言及することはなかった。再任といっても、地域主権の旗振り役を自任、弁舌爽やかな同氏だ。記者団もあらためて工程表を質し、今後の流れを確認すべきだったのだが、そうはしなかった。

3法案の継続審議に全国知事会など地方6団体の危機感は強い。戦略大綱で示した義務付け・枠付け、出先機関の見直し、一括交付金は、どれ一つをとっても忽せにできない問題である。中央省庁の抵抗は一段と強まるだろう。政治主導がこれをどう突破するのか、新政権の力量が問われる。
 6団体代表が、法案の前国会中の成立を首相に直談判したのも、じっとしていられなかったからだ。法律が成立しなければ、来年度予算要求に向けた国との対等な話ができなくなる―そんな危機感がにじみ出ていた。
 ひも付き補助金の一括交付金化や地方消費税の拡充、それに税財源の地方への移譲も、「財政重視」の中でどうなるのか。また、それが地方交付税にどう影響するか注意を要する。「冬景色」の感さえ漂う。

日銀の調査では、地方経済に持ち直しの動きはあるが、地域の景況の厳しさは基本的に変わっていない。本年度予算で、地方経済を支える公共事業費は大幅削減となった。子ども手当や高速料金無料化の財源として公共事業費削減分が充てられたという、恨み節も聞こえてくる。
 参院選一色となった今、東京・永田町と霞が関からは、地域主権改革を心配する声は聞こえてこない。聞こえるのは「政治力学」の咆哮だけである。 

 (「地域政策」10年夏季号