【ふるさとシンポ】@



文化シンポジウム「ふるさとは宝」パネルデスカッションで、
ふるさとの想いを語る女優の竹下景子さん(亀山市文化文化会館、5月29日)

◎説得力ある女性の感性

 タレント・パネリストの話に聴衆が「ウーン」

江戸文化、演劇・舞台、地域文化研究実践―といった女性の視点から文化論を紐解いた三重県亀山市で開かれた文化シンポジウム「ふるさとは宝」(5月29日、三重県主催)は、有名タレントを招いたということもあるが会場にはこれまでになく多くの人が駆けつけ、行政専門家や地域興しの「仕掛け人」を自認する人とは、一味も二味も違う話に聴衆が引き付けられた。
 文化シンポに登場したのは、テレビでも時事問題のコメンテイターとして有名な江戸文化の第一人者である法政大学大学院教授の田中優子さん、女優の竹下景子さん、それと世界遺産に登録された石見銀山の町で独特の文化掘り起こしを実践している松場登美さんの女性3人だ。パネリストにはもう1人の男性、「伊勢河崎まちづくり衆」の高橋 徹さんがいるが、ここでは女性3人だけを紹介する。

田中さんは、いつもテレビでお馴染みの和服姿で登場した。役割は基調講演。「未来のための江戸学」である。副題は「この国のカタチ」といかめしいが、田中さんの話は世界の巨大都市だった江戸に咲いた庶民文化が、見事なまでの循環型社会を形づくっていたこと。当時の庶民生活を描いた絵図で紹介しながら、およそ今日的な「効率」とは全く無縁な時代に人工的でない日常の仕組みが出来上がっていたと具体的な事例を挙げながら話した。
 一例を挙げれば、「下肥」(しもごえ)の話で恐縮だが、人の排泄物は専門の業者に引き取られ、それが肥料として作物を生長させ、ごみは燃やされて灰となり、灰は土壌改良に使われるといった具合である。つまり、日常生活は、再生、再利用のサイクルに乗って回る見事な循環型社会が形づくられていたのである。
 もちろん講演は江戸文化だけではない。全国各地に埋もれた歴史的遺産の掘り起こしは、「文明の破片」を集めながらの根気の要る作業だが、その破片が姿を消した文明を蘇らせてくれる事例が各地にあるという。埋もれた地域文化が新しい素材として復活すれば、これといった特色もない片田舎と思われていた所が、新しい飛躍の足がかりをつかむことになるかもしれない。だが、その地道な仕事をしながら、新しい発見を喜ぶ学生たちが黙々と研究に当たっていることは意外と知られていない。

 女優の竹下さんは名古屋市出身だが、芸能界に身を置いてからは映画、舞台、テレビの仕事で全国を回っている。亀山市のシンポ出席も、東京の仕事を終えてから駆けつけであり、シンポ終了後は少しばかり体を休めただけで、次の舞台仕事で早々と三重県を後にした。
 竹下さんは仕事で訪ねる土地で、さまざまなふるさと模様を経験したという。昨年の暮れ、多くの人が視聴したと思われるNHKテレビの「坂の上の雲」で明治時代の女性を演じた。日本陸軍の「騎兵の父」と呼ばれ、日露戦争では世界最強のコサック騎兵と互角の戦いをした秋山好古。そして連合艦隊参謀としてバルチック艦隊を壊滅させ日露戦争を勝利に導いた秋山真之兄弟の母親、貞を演じた。秋山家は、旧伊予松山藩の下級藩士。好古、真之兄弟が貞に再三上京するよう頼んだが、なかなかふるさとを離れなかった。
 国民的人気を博した「寅さんシリーズ」での3作品で見せた演技は、旅情・父娘の情愛が切なく胸に迫るマドンナ役を演じきっている。さらに、951月、突如阪神地区を襲った「阪神神戸大震災」の鎮魂となる詩の朗読を毎年続けている。震災で壊れたのは店・家屋だけではない。雑然とした町だったが、気心が通じた地域に住む人たちの絆までをも切り裂いてしまった。
 震災の町は綺麗で整然とした姿に変わったが、今あらためて町の、そして隣人らとの絆大切さが語られているという。竹下さんは、その悲しく、かつ立ち上がる町と住民の熱き情熱を毎年、詩の朗読で伝えてくれる。
 そうした経験が竹下さんのさまざまなふるさ感、そして地域・人の絆が「ふるさとの宝」として蘇っているという印象が会場の聴衆に伝わったようだ。

松場さんの経歴も特異だ。石見銀山といえば、今では世界遺産に登録された所として誰でも知っている。ところが松場さんが嫁いだころは、「過疎」と「高齢化社会」を絵に描いたような町だった。そんな土地で起業した。
 「暮らしに根差した生き方に信念を持ち、足元の宝を暮らしにデザインすることをやってきた」。だから、よく言われるような「まち興し」や「地域振興」のための起業ではない。松場さんがこだわったのは、古さに新しさを加える「復古創新」である。古い伝統や歴史をそのまま復活させるのではなく、古さに現代風の新しさを混ぜて新しい形をつくることである。
 イベントをやるにしても、ビジネスや暮らしの中に位置づけることで持続性が生まれる。それと、若者を徹底して活用することだという。(つづく)

1061日)