◎国土形成計画と分権

 うだるような暑さの7月はじめ、東京・永田町と霞が関は、異常気象を映し出すように道路特定財源の一般財源化と北海道開発局の官製談合の二つ問題で上よ下よの大騒ぎだった。
 その喧騒の中で政府は「国土形成計画」を閣議決定した。こっそりと決めたわけではないが、新聞紙面でも扱わなかったり、掲載されても小さい記事だったから気がつかなかった読者がほとんどではなかったか。
 「ベタ記事」に大きなニュースが潜んでいることはままある。国土形成計画の閣議決定は、中長期的に見ると、そんな類の一つの事案と言えるかもしれない。閣議決定の持つ意味は決して小さくない。

国土形成計画は今後10年の国土像を、国内の社会資本整備や都市・農山村政策の方向を示すだけでなく東アジア諸国を含めたネットワークの形成を構築しようというもの。戦後の国土開発計画を具体化した5次にわたる全国総合開発計画に代わる国土整備の基本として、全体計画と広域地方計画の2本柱で構成される。閣議決定したのは全体計画。地方計画は北海道と沖縄を除く8ブロックの論議を経て策定される。
 形成計画は、国主導の開発中心だった全総の反省に立って、地方の自発的な取り組みを目指すとしているが、うたい文句どおりに進むのかの保証はない。
 問題なのは、計画の基調が国主導の色彩が濃く、公共事業の必要性が明確に位置づけられていることだ。確かに、地方計画はあるが、事情の異なる地方の調整は容易でない。国と自治体の関係が、分権改革の趣旨から懸け離れる可能性も否定できない。
 空港・港湾・高速道路の整備は、地方自治体がのどから手が出るほど欲しい事業だ。財源の問題はあるが、国土交通省にとっても地方の要望を踏まえた省益確保の道が確保される、汎用性のある事業である。

道路特定財源の一般財源化を決めるに際して、「必要な道路は造る」という自民党道路族のごり押しができたのも、国と自治体の連携があってのことだ。
 国土形成計画で、愛媛と大分を結ぶ豊後伊予連絡道や淡路島と紀伊半島の紀淡連絡道路など全国6カ所の長大橋構想は「長期的視点から取り組む」となり、原案にあった調査・計画推進という表現は消えた。
 文言は盛られなかったが、国交省の本音は「計画は温存してある」である。国交省が計画を諦めないのは、黙っていても「地方が要望の声を上げてくる」からだ。
 形成計画策定の動きに併せるように、各地で政府への自治体の要請行動が本格化した。この9月初め、日本海沿岸地域の13道県の経済同友会代表が富山市に集まって開いた「日本海沿岸同友会サミット」は、新しい環日本海交流国土軸の形成を目指す決起集会である。
 国土形成計画の装いは新しい。だが、国に依存する形で公共事業が再配分される形は全総計画と大差ない。事実上の「第六次全総計画」と切り捨てる識者もいる。
 分権改革の理想を掲げる以上、国が用意する土俵に安易に乗るべきではない。ボトムアップの計画を潰しかねない国土形成計画にならないよう警戒が必要だ。国のお墨付きを狙うなどは、霞が関の枠の中で自立を求めるに等しい。

(08年秋季号)