【思考停止】

◎迷走首相から離れる民意

 もはや、政権に不慣れだなどとのんきなことを言っている場合ではない。鳩山政権というよりも、首相自身のこのところの言動は、ひいき目に見ても国政を託された最高指導者とは言いがたい。その言葉に説得力がないだけではない。側近でさえ、首相が何を考えているのか戸惑うようでは、「官邸崩壊」という言葉も分かるような気がする。

「確かに私は愚かな総理かもしれない」
 21日の党首討論で、先の訪米の際、オバマ大統領との公式の首脳会談ができなかった首相を「最大の敗者」と酷評した米ワシントン・ポスト紙の記事を取り上げた、自民党の谷垣総裁の質問に首相はこう答えている。
 「愚かな…」発言は、鳩山氏の謙虚な言い回しと見ることもできるが、一国のリーダーたるものが米国の有力紙とはいえ、同紙の指摘に怒るでもない、すんなり反省して見せるなど前代未聞のことだ。日本外交上からも見過ごせない。質問をした谷垣氏の方が怒り、あきれるのだから何をかいわんやである。
 と思ったら、次は高速道路料金の「見直し」「撤回」の迷走だ。
 党首討論と同じ日の夕方開かれた政府・民主党首脳会議で、小沢幹事長が高速料金の「新料金制」は、民主党が国民に約束した高速料金無料化に反すると注文を付け、首相は政府内で再検討する意向を表明した。
 ところが翌日、治まらない前原国交相が急きょ官邸に入り、首相と平野官房長官にねじ込んだら今度は見直しを撤回、国会審議の様子を見ることになった。幹事長の言い分に理解を示し、国交相の基本的な考えを了とする迷走劇である。自らの主体性、首相としての見識はどこかにいってしまったようだ。
 幹事長の注文は参院選を控えた選挙事情からのものだが、新料金制は国交相が自ら発表した、れっきとした政府案だ。政府案は形の上では内閣が了承したものだし、今さら見直すなどと言ったら、「鳩山政権の政策は一体どうなっているのか」と誰もが思うはずだ。
 たとえ剛腕の幹事長が注文をつけたといっても、首相の対応はいかにもおかしい。迷走劇を見るにつけ、首相は高速料金制そのものを分かっていたのかはなはだ疑わしいとしか言いようがない。

同じことは普天間問題でも言える。
 先の党首討論は普天間問題一色だった。首相はここでも「腹案」の内容を明かさずじまいだった。それを言えば当該地域に不安を与えると拒否したのだ。しかし、沖縄駐留の米海兵隊の抑止力の必要性について、首相は「沖縄からそう遠くないところ」と言い、間接的に鹿児島県徳之島へのヘリ部隊の移駐を認めている。しかも「米政府の了解が必要」と、地元よりも米政府の理解を優先させた。
 その徳之島が官房長官との会談要請を門前払いした。いまさら政府が状況を聞きたいなどと申し入れても徳之島は聞く耳を持たないのは当然だ。首相が心配する不安どころか、徳之島は不安を越えて島をあげて普天間移設に反対している。
 首相は普天間問題で、ことあるごとに「沖縄県民の気持ち・思い」を口にする。「最低でも県外移設」を求めて努力中だと強調するが、首相が具体的に動いた様子が全くないのは何度も指摘してきたとおりだ。
 郵政問題に続く普天間、高速料金問題の迷走劇を見ていると、首相は思考停止状態のようである。

5月の大型連休を利用して各閣僚は外国訪問の予定を組んでいる。普天間問題の当事者である岡田外相と北沢防衛相はアフリカやインド訪問を予定している。首相は普天間問題決着に専念するため外遊をしないという。どう専念するのか見守りたい。
 普天間問題の決着まで残すところ40日を切った。八方ふさがりの普天間問題で、幹事長は全く動く様子はない。幹事長は、当初予定していた大型連休明けの訪米を早々と取りやめている。「政策決定の一元化」と大見得を切ったが、首相は何かにつけ幹事長の出番を待っている節がある。
 思い出すのは、本年度予算編成に四苦八苦していた政権に救いの手を差し伸べたのは、他ならぬ小沢幹事長だった。普天間問題でも小沢氏の動きが注目されていたが、訪米しないのだから、それは期待できなくなった。キャンベル米国務次官補が来日するのは、小沢訪米がなくなった今となっては、自ら日本に乗り込んで鳩山首相に何ができるかを見定める狙いからだろう。刻々と迫る普天間問題のタイムリムリミットを考えた米側の苛立ちが表れている。

 ガバナビリティ(統治能力)に疑問符がついた首相は、悲しいかな調査ごとに下がり続ける内閣支持率を横にらみしながら難問に向き合わなければならない。が、それに邁進できるのか。あるいはその情熱があるのか、もうすぐ答えが出る。残念ながら、現状では悲観的な見通ししか思いつかない。

10424日)=尾形宣夫のホーム・ページ「鎌倉日誌」