【普天間問題は最終段階】

◎先が見えた普天間移設

 「大山鳴動して鼠一匹」だったのだろうか。鳩山首相の普天間マニフェストのことだ。
 岡田外相と北沢防衛相の2人が19日の参院外交防衛委員会で普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設やむなしの考えを表明した。これを受けて鳩山首相は同日、首相官邸での「ぶらさがり」記者の質問に「沖縄県民の県外が望ましいという気持ちは大事にしたい。その中で難しいが頑張っている」と語ったという。
 だが、この首相の言は、これまでどおりの当たり前のことを言ったものではない。普天間問題を取り巻く混沌とした状況の中で、外相と防衛相の言葉をなぞりながら、県外移設が難しいとの認識を明確に示したと見るべきだろう。
 「5月末までに結論を出す」(首相)、そのためには「3月のしかるべき日に(政府案を)決めたい」(同)という流れからすれば、鳩山政権の普天間移設案は県内移設に収まることがほぼ決まったと言っていい。
 県内案は現時点では、キャンプ・シュワブ基地内の、いわゆる「陸上案」と、同じ東海岸の米軍ホワイトビーチ(うるま市)のある勝連半島沖合を埋め立てる案が中心となるのはほぼ確実なようだ。連休明けの23日にも公表され米政府と沖縄県に提示、本格的な移設交渉が始まることになる。

 普天間問題は移設先がさまよったあげく、結局は県内移設以外に適当な候補地を見い出すことができないで、県内に舞い戻ってしまった。
 いまさらながら、「最低でも県外移設」などと先行きの見通しが立たないのに大風呂敷を広げた、鳩山首相の安保問題に対する問題意識のなさと、基地問題で政治に翻弄され続けてきた沖縄県民の心が理解できない胸のうちを垣間見たような気がする。首相は意図しないまでも、県民の心を踏みにじることなりそうな気がしてならない。
 沖縄県の仲井真弘多知事の鳩山政権に対する憤懣は当然としても、普天間の県外・国外移設の夢を抱かされた県民の怒りは、よほどのことがない限り収まらないはずだ。今さら「難しいが頑張っている」などと他人事みたいな弁解をされても、聞く耳は持たないだろう。変革を掲げた民主党政権の虚構を見せられただけで、終わってしまったのでは県民も救われない。
 米政府にしても、「陸上案」も「勝連半島沖合の埋め立て案」も既に検討・論議が尽くされた移設案である。非公式なルートでこれらの案を知った米側は「地元の理解」取り付けるよう求めてきている。沖縄県も地元首長も住民も強く反発している移設案が「了承」される可能性は極めて低い。
 その場合、鳩山首相はどうするのか。
 応えはひとつしかない。普天間飛行場を現状まま継続使用するしか道はない。つまり、これまでどおり、普天間飛行場は動いていくということだ。そして、普天間返還を前提にした海兵隊の撤退、嘉手納基地以南の米軍基地返還は画餅に帰す。普天間問題は、文字通り「双六」の振り出しに戻る形で終わってしまうのである。鳩山政権ができて半年、普天間は大騒ぎされながら、何一つ解決も前進もしなかったということになりかねない。

 鳩山首相の政治力の危うさは、政権発足半年で誰の目にも焼きついている。政権のマニフェストが社会の現況に併せて色あせたことは、ある意味では仕方がない。それをつかまえて、「公約違反だ」などとがなり立てる気はないが、普天間問題で「他人事」のような言い方をしてもらいたくない。
 重要な問題で「他人事」みたいな言い方や対応をして批判を浴びた首相がいたのは、つい一年半前のことだ。「心」や「命(いのち)」を訴えるのなら、言葉だけでなく行動で示してもらわねば。それを期待したからこそ、民主党政権が誕生したことを忘れてもらいたくない。
 首相たるものは、浮いた言葉で自己満足すべきでない。言葉だけでなく地べたを這うような血のにじむ政治を心掛けなければ、国民から見放されたはかない短命政権で終わってしまう。

10319日)