【混迷、普天間移設案】

◎移設案提示は先送り

 連立3党が17日に予定していた普天間飛行場の移設案提出が見送りとなった。「限定的な案」(民主党の山岡国対委員長)を並べて、「さて、どれがいいか」と論議したところで調整が難航することは目に見えていた。逆に連立内の対立が浮き彫りとなるのではないかと思っていた。
 案の定、国民新党のキャンプ・シュワブ陸上案が一部メディアで報じられると、社民党の福島党首が「陸上案」にすぐさまかみついた。正式提示の沖縄基地問題検討委員会の場でならともかく、報道内容にすぐさま飛びついた反応は、いかにも場慣れしない党首らしからぬ過敏な反応としか言いようがない。
 国民新の移設案は、嘉手納基地内のゴルフ場に普天間飛行場のヘリ部隊を統合、キャンプ・シュワブの陸上部に1500メートルの滑走路を建設して移すというものだ。
 17日の3党の検討委員会に各党の移設候補地案を提示しようとしたのは、連立3党のプライドを尊重したそれぞれの提案をそろえて具体的な調整を行おうという配慮からだった。この考えに間違いはない。普天間機能の分散配置を含めた県内移設、県外の候補地、国外候補地など様々な移設案が出るだろうし、最後は3党がしぶしぶであっても了解できる候補地にたどり着くことが期待できるからだ。こんな期待感が3党提示に込められていた日程が崩れてしまったのである。
 となると、検討委が約束の「5月末までの決定」ができるのか。現時点では、検討委が今後の各党調整で結論をまとめることはかなり困難と言わざるを得ない。
 民主党の山岡国対委員長は「各党とも大枠で考えていく方向で調整する」と言ったらしいが、「大枠」となると考えられるのは「普天間の危険性の除去」や「県内か国外も含めた県外」での方向付けで調整が進む可能性が高い。しかし、各党が原則にしがみついたままでは、大枠といっても調整は難しい。

連立政権がスタートして以来、普天間問題は他のマニフェストの議論とは質的に違った難しさを抱えていた。民主党の普天間マニフェストは当初の「最低でも県外移設」から後退したとはいえ、国外移設を頑として譲らない社民党と接点を見つけるのは不可能に近いことは明白だった。
 にもかかわらず3党が知恵を出し合い本気で取り組めば、満足できないまでも沖縄基地問題に風穴を開け、旧政権が14年もかかってもできなかった問題解決を大きく前進させられると踏んだはずだ。今となってみれば、その判断は甘かったと言わざるを得ないが、各党持ち寄りの移設案は、そのためのたたき台だった。
 ところが、ふたを開けるどいころか候補地案を持ち寄る前の15日に国民新党の案が一部報道機関に漏れてしまった。情報漏れが意図的だったのか、あるいは取材力が優れていたからなのか不明だが、はっきりしているのは即座に社民党が反発したことであり、3党の移設案提出ができなくなったという事実である。
 社民党が国外移設の候補として考えたグアムやサイパンは、同党の視察調査で現地の受け入れが困難であることが分かった。もはや、社民党の力では他に国外候補地を探し出すことは無理だ。かと言って、県外候補地が難しいから候補地を入れない提案では、辺野古案を認めたと受け取られかねない。
 社民党内は福島党首の指導力不足もあって、社民党案をまとめきれない事情があった。沖縄県選出で社民党の照屋寛徳氏が与党3党の国対委員長会談で個別の案は出さないほうがいいと言ったのも、裏を返せば社民党案をまとめきれない党内事情の表れを露呈しただけだ。
 国民新の亀井代表はキャンプ・シュワブ内の陸上案を含めた国民新案について「ベストではないがベターな中身だ」と言った。

ところで、普天間移設候補地を考える際に、3党の検討委員会の位置づけをよく見極めたほうがいい。率直に言って問題に取り組む3党のハイレベルの場だが、同時に対外的な表向きの機関と見る目を忘れてはならない。委員長の平野官房長官は複数の腹案を持っていると言われる。北沢防衛相が省内に設置した「特命チーム」も水面下で動いている。官房長官の非公式な動きも活発だ。
 国民新の移設候補地案は沖縄県内での分散型でまとまった。この案が大きく修正されることはないだろう。問題は社民党が今後、どのような動きを見せるかだ。この問題で純粋な「連立内野党」を突き通すのか。その場合でも、具体的な自らの案を示さなければ逆に批判の矢面に立たされることになるかもしれない。
 もとより、民主党幹部は社民党の「悩み」を知り抜いている。状況を見計らって民主党案を提示するはずで、そのために官房長官は動き出しているのは明白だ。
 鳩山首相が約束した5月末までに「辺野古案」に代わる移設候補地の決定ができなかった場合、首相は危機的な立場追い込まれるかもしれないとの見方が出ている。現時点では詳細は不明だが、5月連休前後に訪米する小沢幹事長が「普天間問題」で米政府とどのような話をするのか。その内容次第では普天間問題に転機が表れるかも知れない。「5月危機」は小沢訪米の結果次第かもしれない。

10217日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」