【新総合経済対策】

◎首相、気負い目立ち求心力低下

 株価は大幅下落、為替は円高

 企業経営の自負がそうさせるのだろう。
 30日夕、首相官邸で自ら発表した新総合経済対策の中身は、「経済通の麻生」と「有事の麻生」を直接国民に訴える場だった。先の麻生内閣の閣僚名簿発表(924日)に次ぐ、直接説明である。
 安倍晋三、福田康夫両首相のように1年しかもたなかった首相との違いを再度国民に直接見せ「有事の麻生」を印象付ける舞台演出だったのだが、狙った効果は乏しく迫力も欠いた。

 新総合経済対策は、1929年の世界恐慌を再現するように押し寄せている経済危機を、日本としていかに乗り越えるかを示す処方せんとなるものだ。
 財政支出5兆円、総事業費27兆円にも及び、規模は10年前に小渕政権が不況脱出で実施した23兆円(補正予算の財政出動は8・5兆円)を超える。
 首相は会見の冒頭の説明で、「今は100年に1度の金融災害とでも言うべき米国発の暴風雨だ」と語った。
 日本の経済の土台はしっかりしている。しかし、実体経済に影響を及ぼしてくるのは確実だから、何よりも大事なのは生活者の暮らしの不安を取り除くことだと強調、対策の意義・狙いを強調した。
 株価の暴落、そして外国為替では円高がドルやユーロなどの主要通貨に対して進んでいる。この株安と円高が、現実に日本の実体経済に深刻な影響を及ぼし始めているのだから緊急の対策が必要なことは言うまでもない。

総合対策に対する市場(マーケット)の反応が注目されたが、東証株価は30日の終値より450円強も下落、外為市場では円高が進んだ。市場は、対策を評価しなかったということである。
 対策に盛り込まれた中身を見ると首を傾げたくなるものが多い。
 例えば定額給付金(2兆円)の支給だ。所得に関係なく全世帯に支給するというが、1年限りの支給が個人消費につながると応える声はほとんどない。住宅ローン減税の枠拡大が住宅不況を持ち直させるとは考えられない。土・日曜日の高速道路料金の引き下げにしても、ないよりはましだが、ガソリン・軽油の値段を考えればドライブや物流をよみがえらせるとも思えない。
 そして肝心の財源だが、財政規律を守って赤字公債の発行はしない。大胆な行政改革を実施した後の経済状況を見た上で3年後に消費税の引き上げをするというのでは、国民はつかの間のアメを見せられただけで、甘さを実感できそうもない。
 個人消費を中心とした内需を喚起しなければ景気は良くならないのに、「対策で使ったカネは、後で消費税で返してもらう」と言うに等しい。

首相は、対策はバラマキではないと言う。
 だが、11月末の解散・総選挙はなくなったとはいえ、選挙を意識した「なんでもあり」の対策となった。1例を挙げれば、高速料金の引き下げは民主党が掲げていた高速料金無料化のアイデアを自民党流にすり替えたのであり、定額給付金も連立与党の公明党のねじ込みを具体化した選挙対策である。

 道路財源の一般財源化にしても、対策は「道路特定財源から1兆円を地方に回す」というが、国の道路特定財源3・3兆円のうち約7000億円が地方自治体の道路建設用に配る臨時交付金との関係があいまいだ。
 つまり、「臨時交付金」プラス「1兆円」が地方に回されるのかどうかについては、首相は「詳細に決めているわけではない。1兆円を地方にというのが基本」とはっきりしない。「地方への別枠1兆円」に道路族議員が猛反発しており、首相としても決めかねているというのが真実だ。

首相が衆院解散の見送りを正式に表明したことで、自民・公明両党内に様々な波紋が広がっている。11月末の総選挙を前提とした選挙態勢は着々と進んでいた。選挙を仕切る細田自民党幹事長でさえ事務所を開き臨戦態勢をとっていたのだから、党内が選挙準備を本格化させていたのは当然である。
 与党の公明党も当初から早期の解散総選挙を首相に求めていたのだから、首相の解散先送りが友党関係に水を差したのは間違いない。派閥力学から言っても、小派閥の麻生氏の指導力が問われるのは避けられない。首相の求心力も目に見えて衰えだしているという。
 「国民が求めているのは何よりも景気対策」「政局より政策」とは言うものの、国民の信を確かめていない政権を国民は心から信用することはない。
 「政治空白」を懸念する声があるのは確かだが、行政が選挙でストップするわけではない。選挙期間中も内閣は存在する。

解散・総選挙に踏み切った場合の予測調査で自民党にとって厳しい現実が分かり、解散の先送りが公然と言われだしたのはついこの前のことだ。これに米国発の金融危機の本波が襲いかかった。
 こんな状況で選挙をやれば無残な結果になることは避けられない。国民も当面の対策を求めている。それでは、対策に全力を挙げるから解散はその先にしよう。
 つまり、金融・経済危機を「神風」にしたとしか考えられないような解散・総選挙の先送りである。
 民主党は首相が解散を見送ったことで対決姿勢を一段と強めている。これからの国会を予測すれば、法案審議は一つ一つが立ち往生するのは間違いない。
 「有事の麻生」が連夜、一流ホテルで飲食するスタイルをこれ見よがしに続けているようでは、あの東京・秋葉原で若者の喝采を浴びた姿は二度と見られなくなるかもしれない。
 この週末から日曜日にかけて、マスコミ各社は世論調査をやるだろう。ジリ貧の内閣支持率がさらに落ちるようだと、内閣の余命は?と世間は考え始まるだろう。

081031日)