【普天間問題に見る政治力】

◎振り出しに戻る最悪のシナリオも

首相の本気度が試される

 インド訪問中の鳩山首相が28日、普天間飛行場の移設先について「5月までの日米合意」にこぎつけたいと語った。同日開かれた与党3党による「沖縄基地問題検討委員会」の初会合も来年1月末までに3党がそれぞれの移設案を持ち寄って協議、5月中に結論を出すことで合意している。
 連立3党の思惑の違いもあってなかなか明確にできなかった移設時期を首相が明言したことで、普天間問題で揺れる鳩山政権への不信感を強める米政府の態度が少し和らぐことを期待しているようだが、事態はそんなに甘くはない。
 「最低でも県外移設」「沖縄県民の思い」「日米同盟が基軸」など、問われる度に鳩山首相の言うことは変わる。その最たるものは、オバマ大統領との11月の日米首脳会談で06年の日米合意を守るよう求めた大統領に「トラスト・ミー」(私を信頼して)だった。
 日米合意の順守は、早期決着を迫る意向に沿うものだし、そうなると年内決着が現実味を持つ。これに猛反発したのが社民党の福島党首だ。同じ連立の国民新党の亀井代表とタッグを組んで年内決着に反対、福島党首は「重大な決意」と連立離脱も辞さない強硬な態度に出た。
 福島党首の発言は党首選(4日告示)を前に党内の結束を意識したものだが、福島氏にとっても「沖縄」は政治的な生命線のようなものだ。先の衆院選の第一声も沖縄だったし、連立で存在感を示せるのは普天間問題で自己主張を最大限続けることだ。
 鳩山首相の発言の揺れは、一つには日米同盟、二つには連立内閣維持、三つには沖縄である。それぞれに「理解」を示せば、おのずと発言に揺れが表れるのは当然だ。首相の発言がそのつど行ったりきたりしたのは、その場の状況で「精いっぱい説明した」ことが仇となった。

国会終了後、首相はラジオ番組の収録で普天間飛行場のグアム移設について「抑止力の観点から、グアムに普天間をすべて移設させることは無理がある」と語った。さらに首相は司会者の問いに答えて「国内での解決」を認めている。グアム移設について首相は「一つの選択肢」(124日)と言っている。グアムの駆け足視察だったが北沢防衛相も否定的だったし、岡田外相も同じような言い方を再三している。ここにも閣内不一致は明らかだ。
 閣僚が一つの問題で異なる言い方をすれば、「閣内不統一」で野党の格好の攻撃目標になる。与党内でも物議を醸すのは避けられない。ところが首相は、閣僚が違った言い方をすることについて、「それぞれが思うことをおっしゃっているから」「いろんな発言は『政治主導』」とあまり問題視していなかった。ところがその後、「閣内での意見のすり合わせ」「勝手に発言しない」よう指示した。
 政権担当の準備が十分でなかったことや、内閣の未熟さは「ハネムーン期間」だからすべて許される、大目に見てもらえるわけではない。未経験の政権運営で飛び出す難問に加えて、自身の政治資金虚偽報告が追い討ちをかけたのだから、重要政策といえどもそれに集中できなかった。国を率いるリーダーとは、とても言えたものではなかった。
 野党自民党の批判ではないが、首相がグアム移転に伴う「抑止力」に言及したことは、政権発足100日にして初めて日米同盟の重要さに気づいたと言っていい。防衛問題の認識不足がバレてしまったわけだ。
 首相発言の揺れ、外相、防衛相発言との整合性のない首相の「親切な説明」は、外交レベルではありえないことである。

 普天間問題に関する首相発言の揺れを就任時にさかのぼって考えると、06年の日米合意の詳細な検証と国内、対米折衝での根回しがないまま、首相の一方的な宣言として出たしまったことに間違いの始まりがある。
 政権交代があったとはいえ、外交での合意事項を見直すことは相当な慎重さがなければならない。検証、根回しが不十分なら、取りあえず相手国(米政府)に対してその旨率直に伝え、旧政権との合意の問題点を洗いなおす折衝を始めるべきだった。それがないまま、前述したように「日米同盟が基軸」とは相反する言動が次々と飛び出し、独り歩きしたのである。
 米側が首相発言の揺れに「日米同盟が大事か、それとも連立(政権)維持が大事か」とまで言い切ったのは、在日米軍基地のあり方を超えたアジア情勢の流動化を一気に高める可能性を米側が懸念したからである。
 米側の懸念が、単なる米軍の世界戦略を脅かすことだけにとどまらない。日米同盟の強化がアジア地域での日本の存在感の根拠になっていることは間違いない。日米関係が普天間問題で弱まるようだと、日本のアジア外交も無傷ではありえないということである。日米の緊密な連携が、日本外交を支えているのである。

来年1月中に出そろう連立3党の移設案の協議と5月中の日米の最終合意という鳩山首相の決断が、名護市辺野古以外の国内候補地をすんなり決めることになるかは、はなはだ疑問だ。共同通信の直近の全国知事アンケート調査でも、米軍基地受け入れ可能はゼロだった。
 普天間移設先として「国外」が絶望的な現在、残るは日米合意の辺野古を含めた国内に絞られることになる。海兵隊の機能運用面から航空部隊、訓練施設、兵站・弾薬施設はワンセットが米軍側の基本で、分散配置には部隊運用上否定的だ。
 5月中の日米合意が意味するものが候補地の決定であるとすると、あと5カ月で新たな候補地を決めることはできるのか。そんなことは事実上不可能だし、仮に両国で合意したところで肝心の地元がすんなり受け入れるとは、とても考えられない。
 となると、移設先は振り出しに戻って「辺野古」とならざるをえない。キャンプ・シュワブ最の辺野古岬をまたぐように計画される「V字型滑走路」を少しばかり海側にずらしたところで地元の説得材料とはならない。
 普天間飛行場の国外移設の可能性を県民に深く印象付け続けたのは、ほかならぬ首相自身である。県も普天間飛行場を抱える
宜野湾市、それに移設先となる名護市は1月の市長選を控えて鳩山政権の腰の定まらない迷走に振り回されっぱなしである。地元議会も超党派で国外移設を決議している。
 いまさら、「辺野古しかない」と言われて県民が納得するか、はなはだ疑問だ。もし、来年5月の最終決定がそうなるようだと、普天間問題はゼロからのスタートとなりかねない最悪のシナリオである。予断は禁物だが、普天間問題は最悪のシナリオに向かって動き出しているのかもしれない。
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 今年も押し迫った。
 鳩山政権の迷走ぶりは、未知の世界に飛び出したはものの自らの非力と現実の狭間で苦悩する、か弱きエリートの姿に似ている。多少のことには目をつぶる「ハネムーン期間」の100日はだったが、意外に厳しい評価が浴びせられた。
 鳩山内閣の変革はまだまだその緒についたばかりだ。内閣支持率の急低下は新政権に期待が大きかったことの裏返しだが、政党支持率は高いままだ。それは新政権を見放したわけではないことの表れだろう。

 あれこれ物議をかもした事業仕分けだったが、予算編成の裏側に国民の目が入ったことの意味は大きい。政治も行政もプロに任せておけばいい時代は終わった。素人が遠慮なしに政治、行政に参加できる世の中にこそ、民主主義のきれいな花は咲く。時代の変わり目を大切にしたい。

091229日)