【鳩山政権の現実】(2回続き)

 今年も残すとこ、2週間ちょっとになった。先日のブログでも触れたが、今年もあれよ、あれよのうちに過ぎてしまった。何とも言いがたい政治の体たらく、そして当然といえば当然なのだが、衆院選で自公両党が惨敗した。敢えて民主党の歴史的勝利と言わず「自公の惨敗」としたのは、飛ぶ鳥を落とす勢いで登場した鳩山政権が、あろうことか鳩山首相の個人的な不始末で国民の期待を裏切ってしまったからである。
 振り返ってみると、私が企画・編集を預かる自治問題の政策研究情報誌「地域政策」(季刊)も政治の非力と深刻な不況を取り上げることが多かった。前向きなテーマを探そうにも、それができる状況ではなかった。だが、何よりも仲間の協力で編集も大過なく年の暮れを迎えられそうなことがうれしい。新年はより良い企画で新鮮味を持たせたいと考えている。
 今年を振り返りながら最近の動き概観する。一つは鳩山政権の分権感覚、次に普天間問題を取り上げる。

◎言葉が先行する分権感覚(上)

 鳩山政権の分権改革推進計画案が14日開かれた初めての地域主権戦略会議で示された。原口総務相が説明した計画案は、国と地方の協議の場の法案取りまとめ、地域主権推進一括法案の通常国会提出、国が地方を縛っている義務付けの見直し(70項目)などだ。
 これらの改革をスピードアップするため「地域主権戦略大綱」(仮称)を来年夏に策定、ひも付き補助金を廃止して地方への一括交付金を2011年度から段階的に実施して、13年度夏までに実現する工程表案を提示した。
 これでようやく鳩山内閣の分権改革が動き出したわけだ。これからは工程表にあわせて具体的な改革が進むかどうかに焦点が移る。

 推進計画案も工程表案も率直に言って、これまで言われてきた内容を越えるものではない。来年度予算案の年内編成という難物を前に、少しでも身軽にしておこうという苦しい立場の官邸が急がせたものと言っていい。
 鳩山首相はこれまでの分権改革を「地域主権」改革と言い換え、「地方政府」「地方の主体性」を旧政権にもまして強調した。中央の権限・財源を地方に「分け与える」のが分権だから、民主党政権はそれ以上に「地域のことは地域が決める」ことを印象付けようと、「地域主権」としたのである。
 鳩山首相にしても原口総務相にしても、地域主権の美しい姿を、その言葉に託した。「友愛」を掲げる首相の絆の政治を思い浮かべるが、現実はきれいごとだけで済むものではない。初会合は13人の委員の顔合わせなどといったのん気なものではなかったことは、地方税財源の充実への取り組みをさっそく求める知事がいたことでも分かる。
 地方が求めるのは、いまだに「義務付け」や「枠付け」で国が地方の自主性を縛っていることだし、財源を伴わない権限移譲は国の仕事を肩代わりするだけで、地方にとっては何のメリットもない。きれいごとで分権が進むなどと考える首長はどこを探してもいるはずはない。

 民主党は政権奪取に際して、政治に目覚めた全国知事会など地方団体にこれまでにないくらい秋波を送り、分権の重要性とそれを実行する政権を約束した。法律に基づく国と地方の協議の場は、知事会が再三実現を求めてきたものを、鳩山首相がいち早く採択を確約した。法律の成立を待たずに、会合を開くとも言っている。
 審議会方式の有識者による分権委員会を発展的に解消して「地域主権戦略会議」として立ち上げたのも、官邸主導・政治主導の強力でスピード感のある分権の総司令部とするためだった。
 だが、この戦略会議と新年早々に発足する予定の「国と地方の協議の場」の役割分担が明確でない。鳩山首相が議長を務める戦略会議が上位に位置すると官邸は考えるが、地方6団体は「協議の場」の役割を重視する。
 さらに、原口氏が11人の首長や有識者を非常勤ではあるが「総務省顧問」に発令したが、その意図がよく分からない。総務省の全般の政策について意見を求めると言ったことがあるが、発令上は「地域主権関係」と銘打ってある。大阪府 橋下知事は戦略会議のメンバーに切り替わったが、当初は「顧問」の発令がなされている。

 通常、官庁の顧問はせいぜい1―2人だが、原口氏は11人の大顧問団を委嘱した。いずれも分権問題では自他ともが認める論客である。この大顧問団が今後本格化する「地域主権」改革にどんな形で参戦してくるのか大いに関心を持たざるをえない。
 地域主権を多角的に論じ合うことは正しい。だが、似たような役割の組織が走り出した姿を想像すると、よほどの行司役がいないと収拾不能な論議にならないとは限らない。
 鳩山内閣の言う地域主権は具体的な動きを始めようとしているが、どこか足元が定まらない観念論が先行しているような気がする。地方自治体は都道府県、市町村だけで区分けはできない。都道府県間の事情、大都市と中小都市の違い、小規模町村もそれぞれの事情を抱える。
 地方分権とは、そうした自治体が過不足なく分権の恩恵が受けられるようにすることだ。その難しさを乗り越えなければならない。そして、何にも増して住民のための改革でなければならない。

091214日)