編集長コラム「国と地方」

正念場

 民主、社民、国民新3党連立の鳩山政権が目指すのは、連立合意にあるように「官僚支配を許してきた自民党政治を根底から転換し、政策を根本から改める」ことだ。つまり、行政を族議員・霞が関から解放し、内閣主導で政策を実行するということである。
 内閣主導の中身が分からないし、連立政権の具体的な戦術も見えてこないから、地方がもろ手を挙げて賛成とはいかないが、霞が関の呪縛から解放されれば分権改革は大きく前進するだろう。地方にとっては願ってもないことなのだ。
 とはいうものの、現状は自治体に何となく不安が膨らんでいることも事実である。
 自民党の惨敗で、永田町の政治地図は全面的に書き換えられた。その結果、自民党政治に慣れ親しんできた霞が関官僚が方向性を見い出せなくなったのは当然だが、同じことは全国知事会など地方6団体についても言える。民主党との「付き合い方」のマニュアルがないからである。
 分権改革とは矛盾するが、官僚は政界と地方団体をつないでくれる貴重なパイプ役を担ってくれた。ところが、官僚自身が先を見通せなくなったのだから、地方団体はこっそり頼るべき相手がいなくなり、嫌でも自分の足で歩まざるをえなくなった。

地方6団体の盟主は全国知事会だ。その知事会がこの夏、三重県伊勢市で開いた全国知事会議は、これまでになく政治色を鮮明にした。衆院選を控えて政局が揺れ動いていた事情はあるが、存在感が薄かった知事会の変身を思わせた。
 だが知事会議はもちろん、民主党政権を想定したわけではない。大阪府宮崎県の人気知事に秋波を送る永田町の弱みを見透かして「強面」に出ただけのことだ。
 ところが、政権交代が成った。民主党のあまりの勝ちっぷりに戸惑い、新政権との関係をどう構築していくか自問する知事は多い。政権発足を控えて政策・人事問題がヤマ場を迎えているさ中に、東京・永田町の民主党本部に鳩山代表らを訪ねた全国知事会など地方6団体首脳に、それがはっきりと表れていた。
 鳩山代表は、地方側の悲願だった法律に基づく「国と地方の協議の場」を確約した。これまでのような、国が聞き置く程度の協議ではないから国政への反映も十分期待できる。

 一方で各知事は今年度補正予算の組み替えに危機感を募らせている。6月補正、9月補正で計上した予算の大幅修正を迫られるからだ。「地域社会に混乱と不安を招かないよう」要請したが、鳩山代表から政権交代に伴う痛みは避けられないとクギを刺された。
 補正予算はかなりの部分が動き出しているし、凍結・回収となれば現場が混乱するし、議会対応も難しい。だが見直しが避けられない以上、にわかづくりとも指摘される事業や基金に目をつぶっていいはずはない。一部に消化しきれない事業があることも事実だし、緊急性のないものも結構あるようだ。思いつくものを丸呑みしたと言われる巨大な補正予算は再精査されて当然だし、それに伴う「混乱」もある程度甘受せざるをえない。
 政権交代は地方自治体のあり方も問う。まさに、正念場なのである。

(「地域政策」09年秋季号)