【嘉手納統合案】

◎「統合案」の政治的意味

 嘉手納基地と普天間飛行場の統合がどのような意味を持つのかおさらいをしておく。
 嘉手納基地は極東最大・最強の米空軍基地。一方の普天間飛行場は在日米海兵隊の主力航空部隊である。わかりやすく言えば、空軍機の飛行形態は基本的に直線的な離着陸の繰り返しだが、ヘリ部隊が中心の海兵隊機はぐるぐる回る周回飛行が常である。
 双方の航空機が限られた空域に混在することは部隊運用が極めて困難であるばかりでなく、管制面からも事故の危険性が高い。空軍と海兵隊の部隊意識の違いも厄介な問題だ。
 岡田外相が、嘉手納統合の問題点を防衛省から聞いていないはずはない。にもかかわらず「外相としての考え」として統合案を譲らない心の内を推し量れば、東西冷戦時代の遺物である沖縄の過密な米軍基地の聖域とも言える嘉手納基地のあり方を、根本から見直す時期に来ていると判断した表れかもしれない。
 さらに言えば、日米安保条約の庇護の下で核の傘にも守られて、言いたいことを何も言ってこなかった歴代内閣の対米関係を公正に考えてみようと思いついたと見るのも、あながち的外れではない。

私の印象としては、外相の統合案の意図は軍事技術的な側面よりも政治的なスタンスを米政府にぶつけることにあるように思える。でなければ、統合案はあまりにも乱暴な提示となるからだ。
 この問題で琉球新報の111日付朝刊が興味深い記事を載せている。
 記事によると、普天間飛行場移設先をめぐって在日米軍作戦部(J3)が967月に行った調査研究の評価書は、「安全性や運用の問題点から嘉手納基地に統合すべきではないと結論づけた」とある。理由は@飛行回数が大幅に増えるA有事運用に問題が生じ、種類の異なる航空機の運用は危険―などを挙げている。
 嘉手納基地への統合は日本側が最終的に詰めた代替案だったが、米側の反対が厳しくそれ以上進展しなかった。
 (注・参照)ホームページ「普天間事案」インタビュー企画「当事者が語る『普天間の実相』」4回続きの(3)村田直昭元防衛事務次官)=99121日付)

 外相の統合案は、過去の交渉経緯を詳細に検討しようというもので、正式に検証が行われたら内容次第では新たな展開がないとは言えない。外相の期待もそこにあるのかもしれない。
 さらに琉球新報によると、J3の調査研究の対象に「嘉手納弾薬庫地区内への滑走路・施設新設」があったが、滑走路の長さ(1600b)以外の施設整備などの条件を満たさず候補地からはずされたという。
 外相の「嘉手納基地統合案」が嘉手納弾薬庫地域を含む嘉手納基地全体を念頭に置いたものかどうか不明だが、仮に全体を意識したものならば交渉の余地はある。

 普天間飛行場の移設は、日米合意どおりだと残すところ数年の時間しかない。V字型滑走路の位置を数十メートル海側にずらす現行案をめぐる日米沖縄の対立は、米政府の譲歩で乗り切った。
 米政府の譲歩は、在日米軍再編の流れにも支障を及ぼしかねないと判断したからだ。普天間返還なくして在日米軍再編は「絵に描いた餅」と言っていい。元々は、沖縄県民の過重な基地負担を軽減しようとして始まった普天間返還問題である。在日米軍基地を世界戦略の拠点と位置づける米側の思惑は、裏返せば日本政府の協力なしに適えられない。

 安全保障問題は「白」か「黒」かの二者択一ではない。日本がお得意の「足して二で割る」やり方があってもいいし、第三の道を見い出すことができるかもしれない。要は関係者が真剣に問題に向き合うことである。(おわり)

09112日)