2009929

【谷垣自民党】(ブログ)

◎「みんなでやろうぜ」といくか

 自民党総裁選は、大方の予想通り谷垣禎一元財務相が勝った。
 総裁選を一言で総括すれば、自民党は時代の変革を実感できないで、自分を見失ったままさまよい続けているということである。政権党に安住し自己改革の努力をしなかったことが歴史的な大敗につながったことは再三指摘した。それゆえ、野党に転落したことを境に抜本的な党内改革に着手すべきなのに、それもしないで最も理念的で哲学的な「保守とは何ぞや」という命題を、いとも簡単に古い引き出しの中から引っ張り出した。
 にわかづくりの「保守」は、自民党支持者を何とかつなぎとめようとする内向きな作戦だ。足元も定まらない自民党が、崇高な保守論を掲げても説得力はない。
 だからということなのか。党員票の投票率はひどかった。今回は4665%で、06年の投票率を15ポイントも下回っている。身内の総裁を選ぶ選挙なのに、これほど低い投票率は、開かれた総裁選とは言い難い党内の裏事情を知ったからだろう。党本部に対する不信が投票行動に表れたということだ。

総裁選の得票は谷垣氏が300(地方票180、国旗議員票120)、河野太郎氏が144(同10935)、西村康稔氏54(同1143)である。谷垣氏が全体の6割を獲得、数字の上では大勝と言える。
 総裁選は「党内融和」の谷垣氏と、「古い自民党の切り捨て」を主張する河野氏の事実上の一騎打ちだった。両氏が主張する自民党の再生策は、全く相いれない水と油だった。
 衆院の勢力が3分の1近くまで激減した自民党を再生させるには、古い体質を削ぐことを最優先させなければならならないと言うのが河野氏だ。
 同氏は森元首相や参院のドンである参院自民党前会長の青木氏を「腐ったりんご」と切り捨てた。立候補するに当たって、これを阻止しようと党長老らが仕掛けた数々の陰湿な根回しを河野氏は赤裸々に語った。対する谷垣氏の再生論は、そんな長老らも一緒になって党内が一致団結する以外にない、だった。
 結局、党長老や有力幹部らの工作で内堀も外堀も埋められた河野氏だったが、地方票の3分の1を得た意味は大きい。

河野氏の過激な発言に同調する党員が予想外に多かったのは、それだけ党本部批判が強いということだが、一方で大胆な変革に消極的な現状容認派が多数を占める保守的な地方党員が相変わらず多かったということでもある。
 谷垣新総裁は会見で、臨時国会の論戦に臨む決意を語った。臨時国会は政権交代で、かつてない激しい論戦が展開するだろう。それと、神奈川、静岡の参院補選が目の前に迫っている。
 新総裁は強力な布陣を敷くというが、派閥のバランスをとるようだと、どこが変わったのかと冷たい視線が注がれるだろう。だが最も肝心なのは、谷垣自民党が掲げる旗が見えず、対民主戦略の軸がどこにあるのかも分からないということである。
 反重鎮が足場を築いたことで谷垣氏の指導力が問われる場面も少なくないはずだ。谷垣氏は自公政権下で主要閣僚や党の要職に就いてきただけに、自身の政策の矛盾も抱えている。もともと、全体を引っ張るよりも調整型の政治家で、戦略家とは言い難い。

「党内融和」を谷垣氏は「みんなでやろうぜ」と繰り返し言っている。同氏の口癖なのだが、どこか学生のクラブ・サークルを連想させる問い掛けに聞こえる。
 谷垣氏は新総裁としての会見で、記者から「在日外国人の参政権」「夫婦別姓」問題への対応を問われた。新総裁は、民主党との全面対決を最優先することで頭がいっぱいだ。思いもしなかった質問に戸惑ったようだ。
 谷垣氏の応えは、「私の個人的な考え」と断った上で、質問にはいずれも否定的だった。「保守主義の原点に立って、家族や地域の絆を大切にする」ことが理由のようだ。(尾形)