【動き出した鳩山内閣】

◎「未知の世界」の扉が開いた

鳩山内閣の印象を一言で言えば、時代の変化を実感させる新鮮さがいい。象徴的だったのは、各閣僚の就任会見の「言葉」である。これまでは、各府省の事務方が用意したメモを基に新閣僚が「抱負」を語るのが当たり前だった。よほどの政策通か経験豊富な政治家でなければ、「自分の言葉」で語ることはなかった。自分の言葉で語ったとしても、方向付けは官僚が用意した内容に沿っている。
 その常識が全く覆った。
 岡田外相は核持ち込みや沖縄返還をめぐる日米間の「密約」の調査を急ぐ考えを明らかにしたし、前原国交相は八ツ場ダムの建設中止を明言、原口総務相は国の出先機関の廃止、長妻厚労相は「年金問題の早期解決」「子供手当の支給」を強調した。
 いずれも民主党がマニフェストで「国民に約束した」ものだが、いずれの発言も以後の会見でさらに念押しされている。いまや、麻生前内閣やそれ以前の政権がガンとして譲らなかった路線を、見事に転換したわけだ。
 だが、転換したからといってそのまま守られるとは限らない。閣僚の指示であっても関係各府省の抵抗がないとは言えないし、八ツ場ダムのように地元との絡みで紛糾する現実をクリアできるのか。これからは、新閣僚の考えがどのように実現されるのか見守りたい。

「国のあり方」を考える上で、前掲した発言はいずれも新時代の幕開けを感じさせる。
 八ツ場ダムの行方に不透明さは残るが、国主導の大型公共事業がいかに地元を翻弄し地域社会を壊したかは、熊本県の川辺川ダム計画を蒲島知事が事実上の中止に追い込んだことでも明らかだ。
 治水計画、水需要は経済環境に左右される。大型公共事業の典型と言えるダム建設は計画策定から数十年と、気が遠くなるような時間がかかっている。近年のような低成長・ゼロ成長の時代に、高度経済成長を前提にしたような大型公共事業がそぐわないのは誰の目にも明らかだ。河川行政に根本的な転換期が来ていることを銘記すべきだろう。

 総務相に就いた原口氏は地方自治問題に詳しい民主党の論客だ。
 「国の出先機関の原則廃止」発言は、国と地方の役割を整理するうえで避けて通れない最大の問題だし、国が地方をコントロールする「ひも付き補助金」を廃止して地方が自由にカネが使えるようにする「一括交付金」や国の直轄公共事業費負担金制度の廃止も新しい国と地方の関係をつくる、かつてない制度の転換といえる。
 出先機関の廃止をめぐる流れを振り返ると、昨年暮れ、地方分権改革推進委員会が当時の麻生首相に提出した第二次勧告は、国土交通省地方整備局など8機関を統合、1機関を廃止し、将来的に計3万5千人程度の削減を目指すよう求めた。だが勧告は自民党内論議で後退、結局麻生内閣が今年3月に決めた出先機関改革の「工程表」には、分権委が求めた組織の統廃合や人員削減の目標値は盛り込まれなかった。
 勧告内容は、大胆な見直しの突破口を開くためのスタート台をつくる比較的穏便な提言だったが、それさえも認められない「骨抜き」で終わり、麻生内閣の分権感覚の弱さを印象付けた。
 出先機関の原則廃止は、現在最終的な詰めを行っている補正予算の組み替えにもつながる。緊急性とは程遠い庁舎改修・建設費などは本来の趣旨から逸脱したものだ。「一括交付金」も地方自治体が自分たちの裁量権を広げるために求め続けてきた懸案だった。

鳩山内閣は「自分の言葉」でスタートを切った。未知の世界の扉を開いたのである。これからは、その言葉がどう形づくられるかが問題になる。民主党の悲願である「霞が関改革」の実現はその延長線上にある。国民は惰性の政治にようやく見切りをつけた。そして、鳩山内閣に変革を託したことを忘れてはならない。

09919日)