【新政権の挑戦】

◎ムダ遣い根絶に聖域はない

 地方自治体の首長が、弥(いや)が上にも政権交代を感じざるをえないのは国の補正予算の見直しである。自治体からは、見直しがこの先どうなるのか心配で、心配で仕方がないといった本音が聞こえてくる。
 地方議会は今週明けから9月定例議会の審議が本格化している。通常であれば、9月定例会は今年度予算の執行をめぐって例年通り、福祉・医療・教育など身近な問題から地域色豊かな論戦を展開したり、来年度に向けた施策の論議を始めるのだが、今年はまるで違う。

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 何が違うのか。具体的な政策論議ではなく、事業が始められるのか否かという「入り口論」で立ち止まり、肝心の自分たちの補正予算の見通しが立たないことだ。
 国が世界同時不況に対応する緊急経済対策となる補正予算をつくり、これを取り込んだ地方の予算案ができ上がったと思ったら政権交代だ。そして、新政権は補正予算を見直すと言うのだから、ようやくまとめて議会に提案する9月補正を、議会にどう説明したらいいのかわからなくなっているのである。
 議会各党も、補正論議を展開しにくい。執行部に質問したところで、予算執行に関して国から指示がなければ応えようがない。主役の新政権が具体的に動き出さない限り、執行部も議会各党も動きが取れないのだ。
 麻生内閣が、「政局より政策だ」と言ってつくった緊急経済対策の補正予算だから、それに併せてまとめた地方の補正予算案だ。政権が交代したから、即編成し直すことはできない。大体、編成し直すといったところで、肝心の国の補正予算がどう変更されるのか分からないから、手を付けようもない。

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 麻生内閣は昨年秋以降、矢継ぎ早に経済対策を決め実施に移した。今年3月までに決まった対策は前年度の対策だから話は別だが、問題は今年度に入ってからの緊急対策だ。民主党がターゲットにしているのは、今年度予算の執行が始まった直後の4月につくった、経済危機対策の15兆円規模の大型補正予算だ。
 この大型補正予算は、麻生内閣が各府省に指示して、あらん限りの施策・事業を寄せ集めた「ばら撒き」予算として激しい論議を呼んだ、いわくつきの補正予算だ。その中には、緊急対策とは程遠い例の「アニメ殿堂」もある。
 経済緊急対策の一つである「補正予算の基金」は、全部で46基金(総額43600億円)。うち地方分として14基金(21300億円)があり、それが見直しの中心だ。
 衆院選に大勝した民主党が財務省から聴取した15兆円規模の補正予算の未執行分は約8・3兆円に上る。内訳は、雇用対策などを目的とした厚生労働省が約2兆5千億円、地方の公共事業などを支援する資金を計上している内閣府が約2兆4千億円で、この2府省だけで未執行の6割を占める。
 府省から自治体などへ交付がまだ決まっていない未執行は、理屈の上では回収して、別途施策に回すことは可能だ。しかし、自治体の補正予算案に組み込まれた事業を執行停止すれば、自治体の歳入、歳出に大きな穴が開くだけでなく、地域経済への影響も大きい。ある知事などは、執行停止になったら訴訟に持ち込む、と意気込んでいる。このため「地域社会の混乱は避けられない」と全国知事会など地方6団体が鳩山代表に直訴している。
 財務省は補正予算の執行停止をめぐって、地方自治体や各種団体との紛争が起きた場合を想定して、内閣法制局と調整しながら回収可能額の査定作業を進めるという。国会で成立した予算の執行を、仮に内閣の交代という理由があるにしろ、年度途中で停止することが可能なのかどうか。

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ところで、衆院選直後は、新政権のマニフェストに批判的だった霞が関の各府省も最近では「新内閣の指示を待つ」に変わった。補正予算の執行にこだわる官庁もあるが、農水省は交付決定済みの「農地集積加速化基金」の農家への交付を凍結したほか、経済産業省も9月中に予定していた一部の事業について交付決定や契約締結を凍結している。同じような動きが次々と表れるだろう。
 霞が関官僚を目の仇にする民主党政権に反旗をひるがえすような官庁は表向きはない。表立って歯向かおうものなら、間違いなく更迭の対象になるからだ。
 国の方針や考え方を決める閣議決定のお膳立てをしてきた事務次官会議が14日、最後の会議を開き123年の歴史の幕を閉じた。事務次官の定例会見も取りやめになる。新政権の霞が関改革は、各府省の事務方トップの役割から切り込んだ。政策策定の影響力も相当削がれることになる。
 だからと言って、政治が官僚に代わって政策立案をこなすわけではない。行政のプロの官僚にすべてを任せたこれまでのやり方を変えて、政治主導で国民の目線の行政を実現させようというのが趣旨である。新設される「行政刷新会議」や「国家戦略局」が方向性を決めることになる。

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国民が自らの判断で政権交代を実現したのが、先の衆院選の歴史的意味である。政権交代となれば行政のルールが根本から変わるのが当然だし、変わらなければ何のための政権交代かと逆に問われることになる。
 補正予算の見直しも、それによる地方自治体の悲鳴も、政権交代に伴う避けられない痛みと言うこともできる。まず行政のルールを変えることを最優先とすべきではないか。水ぶくれの事業が見直されるのは当然だし、緊急対策の名を借りて潜りこんだ緊急とは程遠い項目にも大ナタが振るわれなければならない。
 ただし、かつて社会問題化したような不況下で善良な中小企業が遭った、金融機関の「貸し剥がし」を再現してはならない。

09年9月14