【マニフェストの通信簿】

◎指針なきマニフェスト

 「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)が主催したマニフェスト(政権公約)検証大会で、自民、民主両党のマニフェストに対する経済団体やシンクタンクなど9団体の評価が示された。
 総合評価では4団体が民主優位、3団体が自民優位、2団体が同点だったが、「地方分権」に絞ると、5対4で自民に軍配が上がった。ただ、100点満点で計算した高得点は、自民党がPHP総研の80点、構想日本の75点。民主党は日本青年会議所(JC)の88点、構想日本の100点だ。全国知事会の評価は自民、民主両党とも60点前後でともに合格としている。
 つまり、9団体が合格点としたのは両党とも3団体にすぎず、マニフェストの中身がまだまだ不十分ということである。「あれも、これも」のマニフェストは肝心の目標がぼやけてしまう。マニフェスト選挙は、この運動を引っ張ってきた北川正恭・早大大学院教授(21世紀臨調共同代表)が言うように「あれか」「これか」の選択である。ばらまきマニフェストには、小骨はいっぱいあるが、大骨は見当たらない。

 両党のマニフェストについて全国知事会が下した評価は、8日の本欄で紹介した。が、知事会を除く8団体の評価は、例えば自民党についてPHP総研が「分権の徹底を反転攻勢の目玉とする意気込み」を高く買っているが、一方で「地方のこれまでの要求を丸呑みした感じ」で選挙向けのパフォーマンスと冷めた目で見る知事がいることも事実である。
 大阪府 橋下知事や横浜市の中田市長らによる「首長連合」が、民主党の地方分権政策を支持すると表明したのは、分権改革に必ずしも協力的でなかった自民党が、手のひらを返したように積極的な姿勢をあらわしたことに対する不信感からきている。
 経済界は今度の選挙に際して政策本位を打ち出した。
 自民党に対する国民の不信が高まり、政権交代の可能性が高くなっている状況に経済界も目をつぶるわけにはいかない。とはいえ、長年の政府、与党との関係から問題点を知りながら、自民党との関係に配慮する雰囲気は残ったままだ。

 この経済界が地方分権で自民党を評価するのは、道州制をはじめとして地方財政問題でも具体性に欠けるが、トータルな処方せんを用意したことを前向きに受け止めたからだ。
 全国知事会はほぼ横並びとはいいながら、自民党のマニフェストの優位を認めたのは、地方団体の要求を丸呑みしたが、地方税財源問題や分権論議を深める国と地方の協議会設置を法律で定めるとか、道州制の導入時期の明示などで民主党を上回る回答を用意したからだ。
 だが、知事会の評価は自民党に甘かったことも事実だ。
 知事会の政治力のなさにも問題はあるが、分権改革に対する政府、与党の関心の低さは、地方団体が肌で感じていることだし、それを突破できないで悶々としていた首長たちは多い。
 地方分権改革推進委員会の
2回にわたる勧告に対して、自民党の委員会は極めて冷淡だった。勧告を受けて政府がまとめた分権要綱が、党内の抵抗で肝心の課題を先送りにしたことを見れば、分権改革に対する自民党の腹の内は明白だ。

選挙戦は告示前だというのに、場外乱闘の様相を呈している。首相経験者や党幹部が、地元に張り付いてどぶ板選挙に汗を流しているが、自民党の危機感は予想を超える。
 麻生総裁(首相)の民主党攻撃は日に日にエスカレートしている。12日の鳩山由紀夫民主党代表との党首討論は、与野党の党首が入れ替わったと見間違えるくらい麻生氏の「口撃」が激しく、対する鳩山氏は守りに回りながら冷静に受け答えしていたのが印象的だった。
 党首討論は、互いに個別の政策の説明と相手攻撃に終始し、国家ビジョンを示すことはなかった。マニフェストに盛られていないのだから、せめて党首討論で次元の高い国家ビジョンを交わして欲しいと思った人が多いはずだ。
 麻生氏が、いの一番に口にした「責任力」とは何か。その責任力を果たさないまま社会の仕組みがぐらぐらになっているのが現実である。
 政治家にとって、言葉は命である。聞くものをうならせるような政治家の話を聞きたいが、ないものねだりはよそう。

 日ごろの研鑽が言動に表れる。リーダーたるものは、よく肝に銘じて国民に向きあって欲しい。つい先日もあったらしいが、言葉の読み違いなどは論外である。

09813日)