【ブログ】 2009727日 (尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)

お呼びがかからない首相

 東京都内での業界団体回り、そして地方では身内を前にした講演――自民党総裁の麻生首相が、いわば身内の集まりでしか所信を話せない現実ほど、今回の総選挙を象徴的に表すものはない。各党党首が東に西に、南に北に飛び回って有権者に語り掛けている時にである。
 衆院解散から1週間で、首相が回った業界団体は20を超える。組織票を狙った業界への挨拶だが、総選挙の火ぶたが切って落とされた今、首相がなすべきことは、まず街頭に飛び出して「第一声」を上げることだ。そうして選挙戦を盛り上げるのが常道なのだが、首相はそうはしなかった。
 あの「麻生コール」を巻き起こした「アキバ演説」の効果を知っていながらだ。先日の大相撲名古屋場所千秋楽で、優勝力士に手渡す総理大臣杯も代理の者に任せた。誰もが不思議に思ったのではないか。
 政界通ならずとも知っている、目立ちたがり屋の麻生氏なら買ってでも自分の出番をつくるはずだ。せっかくのチャンスを何故生かさなかったのか、起死回生を図る自民党員たちは、文字通り切歯扼腕だっただろう。

内閣支持率は一向に上向く気配がない。世論調査の「首相にふさわしい人物は?」では、民主党の鳩山代表にダブルスコアで引き離されている。
 マニフェストをかざしたくとも、その準備ができていない。麻生氏が街頭に飛び出さない、あるいは飛び出せない理由は幾つもあるだろうが、自民党内の混乱を取りあえず収めた両院議員懇談会、代議士会で語った麻生氏の「不退転の決意」を身内ではなく、建物の中ではなく堂々と青空の下で国民に有権者に訴えた方がどれほど党内を、支援組織を勇気付けるか言うまでもない。
 東京を離れた麻生氏の地方遊説は、25日に日本青年会議所(JC)が横浜市で開いた会合と、自民党宮城県連主催の仙台市での政経セミナーだけである。その第一声となったJCの会合では麻生氏は「高齢者は働くことしか才能がない。80歳を過ぎて遊びを覚えても遅い」とまたも不適切な発言を繰り返した。この後向かった仙台での政経セミナーで横浜発言を釈明する始末。
 どうも麻生氏の演説は、その場の「ウケ」を狙って脱線する。気の置けない身内の前とはいえ、その後ろに国民の目、耳があることに気づかないはずはないのに。ましてや、最大の政治決戦を控えているこの時期である。
 大体、麻生氏の言葉の使い方がおかしい。「高齢者は…才能がない」は、正確に言うなら「高齢者は…能がない」である。文脈からいっても「才能がない」とは言わない。いずれにしても、「否定的な言葉」であることは同じだ。
 釈明したように、もし高齢者の奮起を促すのなら「高齢者も、もっと社会のために働いてもらいたい。その才能は十分にある。政府はそのためのバックアップ態勢をつくる」とでも言えば十分説得力がある。後始末の釈明などしなくても済む。

麻生氏は昨年9月、首相就任の第一声を東京・秋葉原で行った。いわゆる、サブカルチャーの「アキバ演説」である。麻生氏はその前の自民党総裁選の街頭演説も秋葉原でしている。若者文化の拠点でした「アキバ演説」は、総裁選に負けはしたが若者たちの「麻生コール」を永田町に響かせた。
 世界的不況が麻生氏を変えてしまったのか。そうではあるまい。暗い世相ならば、その分明るさを若者だけでなく国民は求めている。むなしいウケ狙いではなく、心から国民に問い掛ける言葉が欲しい。(尾形)