【第2次分権改革の展望】

「出先機関を潰すなら、『そもそも論』で地方で受け取るもの、国にやってもらうものを分けるべきだ

 野村総合研究所顧問・元総務相
 増田寛也

 聞き手……尾形宣夫「地域政策」編集長

【略歴】

増田寛也(ますだ・ひろや) 1951
東京都生まれ。
77年、東京大学法学部卒業。同年建設省(現国土交通省)入省。茨城県企画部鉄道交通課長、建設省河川局河川総務課企画官を経て、94年、同省建設経済局建設業課紛争調整官で退職。95年、全国最年少の知事として岩手県知事に就く(3期)。2007年に岩手県知事を辞し、第2次分権改革を推進する「地方分権改革推進委員会」の委員長代理に就任。
06年8月年、総務大臣、内閣府特命担当大臣(地方分権改革)就任、地方再生担当・道州制担当・郵政民営化担当(―08年9月)。09年4月、株式会社 野村総合研究所顧問。東京大学公共政策大学院客員教授、内閣官房参与。
岩手県知事在任中は全国知事会の改革派知事として活躍、岩手県で「公共事業評価制度」の導入、市町村への権限・財源・職員の移譲による「市町村中心の行政」を推進した。


▽「まず動かそう」が財政問題の出発点

尾形 去年の秋のリーマンショック以来、わが国は未曾有の経済危機の中で、地方経済も大きな打撃を受けています。地方自治の萌芽期と言われ、革新知事・市長が国と対峙して存在感を示した昭和40年代の「太平洋革新ベルト地帯」も、結局、不況による財政問題で瓦解しました。地方自治、分権問題は財政問題と切り離せない気がします。
 小泉内閣の三位一体改革は、分権改革というよりも財政再建を背景とした地方行革の色彩が濃く、地方団体は裏切られたと感じています。第二次分権改革はヤマ場を迎えていますが、不況の中で地方団体側にかつてのような改革の熱気が感じられません。

増田 財政問題は、第一次分権改革の「分権推進委員会」に続いて今の「分権改革推進委員会」(丹羽宇一郎委員長)が考えをまとめ、対応する役割を担っている。財政問題はこれまで分権改革の中であまり手付かずのところがあったが、小泉構造改革の中で「三位一体改革」をきっかけに取り組もうという機運が生まれ、まず3兆円の税源移譲からやってみようということで始まった。(改革の)仕掛けまで十分考えているというより、とにかくまず動かしてみようという哲学で取り組んだ。
 分権改革の文脈の中で言えば、財政的な自立は非常に大きな部分で、そのために義務付け、枠付けを整理したり、さらに遡って言えば「国の役割」と「地方の役割」を整理をするということが前提だ。国の役割、地方の役割は時代とともに変わっていくにしても、そこを整理してどういう分権国家を目指すかというところの議論がある。それについて共通認識ができ、それに見合った財政のあり方が多分出てくると思うが、その前段のところの共通認識が十分でない。
 総論で「分権は必要だ」とは誰でも言うが、共通認識と言えるのはその程度であって、分権型の姿とか骨格についての(認識に)隔たりがある。それで財源問題まで議論が辿り着いていない。

尾形 自治体間の隔たりですか。

増田 国と地方の隔たりだが、地方自治体間でも「地方に財源が必要」というところではまとまるが、それから先の分権型社会の中での地方の姿はどうかとなると全国知事会と全国市長会、特に全国町村会とは決定的に対立している。
 それと、国と地方の役割の具体的な表れとして、今クローズアップされている直轄道路、河川の地方負担の問題も本来は直轄事業を地方にどう移譲するか、あるいは直轄事業の役割分担の話だ。ところが聞いてみると、知事会があんまり積極的に動かないし、市長会や町村会は「あれは県ではなく国でやってもらうもの」と言っている。全体の共通認識になっていないから、分権委員会が一気に財政問題にたどり着けない。

▽自由度の拡大よりも仕事の範囲拡大

尾形 地方6団体の連携プレーができていない。それぞれがいろんな事情を抱えていて噛み合わない。

増田 財源問題で具体的に歩みを進めるのは多難だが、分権委の丹羽委員長が言うように、どこかが動かないと全体が動かない。やはり地方自治体のどこかが自ら動ないと、(問題に取り組む)きっかけができないのではないか。

尾形 第一次分権改革で基本的な問題が整理されたはずでしたが、できていない。だから丹羽委員会の第二次勧告で「枠付け」「義務付け」の見直しを改めて出さざるを得なかった。自治事務とされながら、実は自治事務ではなかった。

増田 (取り扱いが二転三転した)定額給付金問題もそうだ。それから妊娠初期から出産までの)妊婦検診(の無料化)は14回でもいいと思うが、そこまで水準を上げると財源が大丈夫なのか。検診メニューも自治事務なのだから自分で選べるはずだが、ほとんど(国に)決められている。だから、自治事務の自由度を拡大することに、分権委員会の活動が力を割かざるを得ないのは悲劇と言うか、辛いところだ。
 本当は自由度の拡大ではなく、仕事の範囲の拡大に主力を注ぐべきで、そこに国がやっている仕事を移し、それに応じたカネも人も移すことに結び付かなければならないのだが、それができていない。
 ただ、ここは議論が難しいところで、国は仕事を移譲することに抵抗感がある。直轄の公共事業などを見ていると、地方側に受け取るという動きが見えない。

尾形 そのことは第一次改革の頃から見られました。肝心の首長が口を塞いでしまって、当時の分権委員会に何も言ってこなかった。

増田 当時の秋田県の知事が「俺のとこが全部受ける。その代わり、財源と人を寄こしてくれ」と言ったぐらいだった。確かに財源の問題で地元に行けば県も市町村も不安になるところがあるが、国交省もある程度振り分けして地方に渡さないと、直轄事業も予算が要るしやっていけないということを言っている。本気でやるんだったら、最後は知事会から、県が受け取るという動きを出さないとしようがない。

▽補助金廃止リストに入らなかった公共事業

尾形 国と地方の役割を明確にする、国の出先機関の統廃合は二次改革の行方を占います。ところが、分権委が昨年暮れ提出した第二次勧告の出先機関の見直しは、新たに「巨大な出先機関」をつくるものだと厳しい評価が下され、永田町、霞が関も違った面から批判しています。

増田 (数値目標を示した)勧告自体がずいぶん無理をした勧告だなと思うが、あの問題(出先機関)は少し(現場から)離れて見ると、国だって渡したくない、地方も受け取りたくないというのが、公共事業に典型的に表れている。国交省で言えば、直轄事業を実施するのが出先機関で、それを地方が受け取らないということはもったいない話だ。

尾形 分権委の勧告に対する永田町や霞が関の反発が強いのは、政治のリーダーシップに問題があるからです。増田さんは、知事として、総務大臣としてさまざまな状況を見てきた。

増田 私は、確かに広い範囲の仕事をやってきた。第一次分権改革のころからも考えてきたのは公共事業(の取り扱い)だ。補助金約20兆円の中で公共事業に関するものは4兆円強あるが、これに何も手が付いていない。

尾形 どういうふうにすればいいですか。

増田 公共事業の大半は地方で受け取らないと駄目ではないか。もう一つは、地方から提案して、カネとそれに伴う態勢を地方に移せるものは移すことだ。もし本当に(出先機関を)潰すんだったら、そもそも論で地方で受け取るものと、国でやってもらうものを分けなくてはいけない。
 今の直轄事業負担金の議論が今一つ心に響かない。地方の言い分は、負担するのが嫌だからというふうにも聞こえるし、国もそれなら地方の負担の9割ぐらいは当面肩代わりしようという、どれだけ地方に移すのかというのを議論するのが大事なのに、カネだけの問題になっている。三位一体改革で補助金リストの廃止項目をまとめる時、公共事業を入れるべきだと言ったが、災害が起きたときのことを心配する知事に「国の補助がいいんだ」と反対されて、結局やめてしまった。そして、補助金廃止は義務教育が大半になってしまった。

▽縦横の制度設計で住民理解が進む

尾形 確かに当時の補助金廃止、税源移譲の論議は、金額をどう積算するかという数合わせの印象が強かった。結局、補助金廃止も税源移譲も国と地方の「カネの取り合い」と見られたことも否めません。

増田 分権は、制度面はどうしても国と都道府県、そして市町村という縦型で、権限やカネ、仕組みをどう住民に近いところに移していくかという議論だ。
 だけど、縦型の上からの目線だけじゃなく、住民・地域のレベルに立った横型(の目線)で、有効に使うための仕組みとして、今の仕組みがいいのか、あるいはもっと補うところが必要なのか(考えなければならない)。
 そうすると、議会の機能はもっとアップしなくてはならない。監査制度も、もっと手を入れる必要がある。地方空港が次々できるなど、住民の負託を受けている人がフルセット型で物事をやることが今までの自治体行政だった。しかし、これだけ税収が落ち込んでいる時に、フルセット型の行政は難しい。
 だから、横できちんとした制度設計をまずした上で、現実に具体的な事業が県あるいは市町村に下りてきた時に、うまく成果が県民とか市民に見えるような形にしないと、縦関係でカネの取り合いをしているだけに見えてしまう。
 横型のネットワークを築き上げた上で、地域でちゃんと無駄な歳出はしないようにする。自分たちで地域を治めるようなことをやってきて、縦と横の両方目指してやっていかないといけないんじゃないか。

尾形 縦横の制度設計ができていないと、住民はついていて来ません。

増田 (財政破綻した)北海道夕張市みたいなところが出てきて、議会も誰もチェックしなかったら、ますますひどいことになってしまう。

▽知事会長の無投票3選は残念だ

尾形 先ごろ、全国知事会の麻生渡会長の3選が無投票で決まった。分権の機関車役は全国知事会です。しかし現状は、かつての「闘う知事会」ではない。顔ぶれも大幅に変わり、戦闘態勢が弱くなった。1期目の知事は19人もいます。

増田 知事会長選だけはやって欲しかった。ものすごく残念だ。麻生さんの運営では駄目だというのではなく、2期続けて無投票はないんじゃないか。そもそも47人の個性の強い知事がいる。みんな同じ考えというのは絶対あり得ない。
 会長選をやるということを通じて、知事会の今後の行方についていろいろ世の中に発信できる。テレビを常に意識している知事さんもいて劇場的な世の中にもなってきているが、何かの形で外に知事会としての活動、行動を伝えるということをもっと考えて欲しい。

尾形 無投票3選は、地元事情が厳しくて、会長選に出られるような余裕がなかったとも言えます。

増田 地元が忙しいのは事実だと思う。医療問題一つ取ってみてもそうだ。しかし、多くの問題の本当の原因は複数の県にまたがる。医療問題も、医師養成、定員を抑えたというところから始まり、診療科の偏在問題など本当の相手は誰かとなると、かなりの部分において国のところが多い。だから、自分の県のことで忙しいと言っても、その問題を片付ける大本は知事会などを通してズバッと言わないといけない。
 私も(岩手県知事当時)しょっちゅう「県にいない」と県民から怒られたが、知事会として時間を割いてやらないと、肝心の足元だって解決しないということがあるんじゃないか。知事会は内で闘わないと、(その熱気が)外に伝わらないし、外でも闘えない。たかだか47人の会長選挙だ。選挙さえ終われば、結果がちゃんと出てすぐまとまる。(選挙結果は)割り切ればいい。

尾形 3選された麻生会長は、タブーと思われていた消費税引き上げを求めると明言しました。

増田 総選挙を目前にして、自民、民主両党とも消費税議論を避けている。だが、年金が崩壊して政府なんか信頼できないと、国民は過剰防衛的に1400兆円もの預貯金を持っている。
 無駄をなくすのは大事だが、国としてしっかりと構築すべき生活安全保障のネットワークがズタズタに切られた。今までは、政府は高齢者にウエート置いてきたが、これからは現役世代を含めてライフステージで切れ目のない制度設計をしなくてはならない。
 新しい制度設計で政府の役割は大きくなると思うが、その時に全部を国がやるのではなく、すでに社会保障段階で相当地方団体がさまざまなサービスを提供する態勢が出来上がっている。
 一定程度の負担をしないと財政はもう回らないと国民は分かっている。消費税の議論は本来政党がやるべきなのだが、地方がどれだけのサービスを給付しているかをきちっと示しながら消費税引き上げを論議すべきだ。
 上げる時に地方が何も役割を果たさないで、「上げたらどれだけ寄こせ」では駄目だ。選挙前の「こういう時期に議論するのはどうか」という話もあるが、むしろそういう時期であっても、まっとうな議論をやっていくのはいいことだと思う。知事会としてやるんだったら、ちゃんと都道府県の社会保障での役割をはっきり示したほうがいい。市町村では無理なところがある。
 総務省の資料だと、地方自治体がケースワーカーの配置や救急医療体制の確保など、地方独自の判断で役割を果たしている部分は7・1兆円もある。経済財政諮問会議で過剰だ、勝手に地方団体がやっていると言われているが、地域で安心・安全をつなぎ止める意味で、乳幼児の医療費助成でもいろんな地域の状況によってやっているところがあるはずだ。ある程度柔軟さがないと社会保障の制度としてうまく回らない。
 だから、そういう役割を積極的にアピールすることと、それから一方である部分はもう全部市町村に押し付けているが、県がある程度の役割を担ってそれで積極的にやっていかないと、消費税の議論については太刀打ちできないという気がする。
 京都府は、国民健康保険を府で一元的に運用をしようという前提で制度設計をしている。住民から言えば、市町村だろうが県だろうが、きちんとやって成果が出ればいい。ぜひ、成功させて欲しい。

▽直轄事業にも分権的思考が必要

尾形 直轄事業負担金制度が大きな問題となっています。知事会は緊急アピールで「維持管理」の廃止求めました。ただ、制度廃止については賛否両論がありました。

増田 新幹線などに見られるように、地方も負担してでも早く完成すればいいという空気が地元にあった。地方がそれを望んだからだ。財政的に多少ゆとりがあり負担金を払える時代は問題にならなかったが、今のように財政が逼迫すると「受益」と言っても本当ははっきりしないものがあると思う。道路の維持管理費などは、スパッと断ればいい。
 維持管理は整備された後の話だから、表では言わないが国交省はもう(予算を)確保していると思う。後は財務省との関係だけだ。建設・整備の議論は、工種ごとに変えてもいいのではないか。
 直轄事業負担の議論は、国民から見ると「物は欲しいけどカネを払うのが嫌だ」という風に見えるので、それよりもどうやって地方に事業を移すかの議論が大事だと思う。

尾形 そうなると、国の出先機関の統廃合ということに触れざるを得ません。

増田 これだけ経済が落ち込み、人口も減っていくんだから、そもそも本当にその直轄事業自体が必要なのかという議論がある気がする。高速道(の凍結を解除し)の整備計画を増やした。(滋賀県の)大戸川ダムなどは一応凍結にはなっているが、国交省はまだ多分やるつもりがある。
 だから、事業の見直しがあって然るべきだと思う。もしやるとなった時に、直轄事業ではなく県でやるものをきちっと出していかないと、直轄負担金の負担というところだけで議論すると、結局またカネの話になってしまう。

尾形 「この事業は要らないんだ」という声を地方のほうからも出すべきだと思います。はっきりものを言わないから、国のレベルで公共事業をやることになる。

増田 直轄事業の量、負担金の額は、公共事業が減りつつも全然変わっていない。直轄事業と言えども、地元が見てやるべきかどうかを考え、その上で事業の分類の話があって、もっと国でやるものを地方で引き受けるというのが絶対出てくるはずだ。これが分権的な思考であって、直轄の負担金の話は最後だと思う。
 ただ市町村から見ると、「県は何を調子のいいことを言っているんだ」という声が多い。県事業について市町村は結局、「県の都合でやっている」という意識である。身近なところで、県が国と同じことをやっているじゃないかという冷めたところが市町村にある。だから、足元を正していかないと駄目だ。

尾形 増田さんは岩手県知事時代に公共事業を3割削減しました。相当抵抗があったのでは。

増田 あれは、知事選の前にマニフェストに書いておいたので良かったが、後からだったらできなかった。消費税も次の財政のことを考えると、(麻生会長は)どうしても消費税引き上げを言わざるを得なかった。財政的な問題もあるが、地方の行政のレベルが上がったということだ。分権の制度論とか、おカネの問題は確かに根幹にかかわる大事なことだが、公共事業に頼って地方団体は結局公共事業のカネだけを撒いておけばいいんだみたいに国から思われるようなことから、一歩でも脱却して欲しい。そのために成果が挙がる知恵が必要だ。

▽地方再生事業のネック

尾形 昨今の状況は、政策に名を借りたバラ撒きが目立ちすぎます。

増田 分権というのはバラ撒く存在をなくして、例えば物事を決めるのは全部地方議会がするし税源を移譲して地方の中でやる。だから県が市町村にバラ撒いたら、それは国の二の舞だ。最後は国会議員(の考え)だと思う。分権に反対するといった極論が出てくると思う。

尾形 その国会議員が道州制に大変熱心です。

増田 大事なことは、道州制は確かに基礎自治体がしっかりしたものでないといけないという前提がある。道州制だから基礎自治体はもっと強制合併じゃないけど、ここまで減らすとか、ちょっと形にこだわりすぎるとまずい。
 運動論としては合併はやめるべきだが、水平的な関係で自治体を強くすることは今後も必要だ。それは都道府県レベルでも必要だし、それが行き着くと道州制につながるかも知れないが、横関係だけを見れば都道府県合併というやり方もある。
 ただ、道州制というのは、その横関係だけじゃなくて縦で中央省庁もほとんど要らなくなるということがないと道州制ではない。だから、都道府県レベルで縦と横が交わって、中央省庁がほとんどなくなる。一方で、都道府県がブロック的になって仕事が国からブロックに近づいてくる、そういう姿だから、それが実現するまでにものすごく大きなハードルがある。やっぱり時期的にはかなり先になると思う。

尾形 福田内閣の総務相の時に出した、地域再生のいわゆる「増田プラン」は、三位一体改革で混乱した地域の再生を狙ったものです。しかし、今の状況はかつてない経済危機です。これまでの様々な緊急経済対策は、増田プランにどうつながっていますか。

増田 仕組みとしてはプランを通してやっていると思うが、欠けているのは、どうしても元気再生事業を100カ所とか120カ所に広げていこうという「点」ということだ。地方の経済を良くするには民間活動が主力で、それを下支えする金融機関が役割を果たさないと全然変わらない。そのために地銀をいかに機能させるか、まさに金融政策だ。総務省よりも金融庁を含めた部門の話というのが一つ。
 それと、地方財政の中で、県庁にマクロ経済とかいうことをきちんと理解できる人材が少ない。県経済全体を見て、県の中のマクロ経済でどういう財務運営をしていくか考えてやっていく人間は非常に少ない。ただ公共事業だけ積み増せばいいと考えてやっていると、「ゾンビ企業」が存続して、高度展開ができない。
 あともう一つ気になっているのは第三セクターの問題だ。いろいろ手を入れなくてはならない三セクが総務省関係で全国に500―600ある。本当は整理しないといけないのだが、いろんな事情で処理が先送りになっている。これを、ガラッと整理しないといけない。

尾形 財政健全化法で問題ある法人は全部膿を出すようになっている、にもかかわらずですか。

増田 危ない状況があぶり出されて、ではこれを整理しようと勇気が持てれば、今度は議会を説得しないといけないし、地元も説得しないといけない。金融機関へ行って借金の棒引きも頼まなければならないなど、やらなければならないことがいろいろある。
 そして、三セクのトップに首長がなっていれば経営責任の問題が出てくる。地元の名士が参加している場合はその人を整理しなければならない。産業再生機構の例では、住まいの土地・建物以外はすべて処分して企業再生に取り組んだ。三セクはここまで来たら地域経済の足を引っ張っているわけだから、整理のタイミングではないか。

▽知事会には新たな存在感が必要

尾形 ところで、全国知事会はどうあるべきでしょうか。

増田 6団体でまとまるのは、「カネを増やす」というところだけではないか。あとは利害が対立する。それでもそういうところには手を付けず、すぐまた公共事業に頼ろうとする。公共事業は前にも言ったが、地方が引き受ける方向で議論をする。それから、市町村も含めて社会保障関係でどういう役割を果たしていくかの議論を示す。

今度、三重県で開く全国知事会議でそうした議論を整理していくと思う。やはり、都道府県の役割、新たな存在感というのが出てきて、それを実現していく上での活動団体としての知事会の役割が出てくると思う。

尾形 識者の中には、財源がないから引き受けられないではなく、財源は後で求めるとして、とにかく自分で仕事を取ってしまえという意見がある。カネの話は大切かも知れないが、改革を前に進めるためには、知事会はもっと(前に出て)やるべきじゃないかというような学者も結構います。

増田 そこで動かないと地方に役割はないということになって、消費税が地方にこなくなる。だから、財源のことを出していく時には、(地方の役割は)こういう役割だということを示していくべきだ。

尾形 以前、この企画に登場した自民党の元幹事長の野中広務さんに聞いたら、地方6団体なんか要らないと言っていました。一つの組織にして、「市長部会」とか「町村部会」にするよう提言していました。首長経験もあって地方行政に詳しい野中氏の話は説得力があった。

増田 もう6団体で何かやるというより、外向きに自分たちの新しい存在意義、何をやるか役割をはっきり言わないと。

尾形 せっかく全国知事会が「サロン」から「闘う知事会」になって今日に至っている。組織が存在意義がないと、誰も相手をしてくれない。だから地方団体は自ら存在意義を考えないといけないと思います。