【国のあり方を問う】

◎政治不信が招いた論議の高まり

 総選挙で注目したい「国のあり方」で、各党の主張には現時点で明確にその姿を示すものはない。各党のマニフェストが出そろったわけではないが、目下のところ、社会福祉、医療、教育、子育てなど内政や日米関係を軸とした外交課題は満遍なく盛られているが、当面する具体的課題とは別に、日本が今後どのような国に生まれ変わろうとしているのか、つまり国の将来像を示す青写真はほとんどないと言っていい。
 解散をめぐる党内のゴタゴタでマニフェストづくりどころではない自民党は、「公示に間に合えばいい」と言っているが、上を下をの大騒ぎをした党内事情を考えると、胸に響くようなマニフェストを期待するのが無理というものだ。
 現状では野党、特に民主党のマニフェストの粗探しだけが党幹部の口から飛び出すだけだ。役人の作文ではないのだから「検討する」だとか「前向きに取り組む」などと言わないでもらいたいものだ。

ところで、「国のあり方」である。理念的で一般受けはしないようだが、総選挙では避けて通れない重要な問題だ。
 国民が目先の苦しさを何とかしてもらいたいと思うのは当然だが、そんな国民もこれから先、日本がどういう国になろうとしているのか知りたがっている。マニフェストで並べられる約束が、その将来像に向かって着実に前進する一歩となるのかを真剣な目で見ていることを各党は忘れてはならない。
 もともと、保守政権の支援者で物心両面で自民党政権を支えてきた経済団体も、よほど永田町政治のお粗末さに業を煮やしたのだろう。経済各団体が例年夏季フォーラムで議論するテーマは、今年は総選挙が目前という事情はあるが、各党のマニフェストに対する注文が目立った。
 それだけなら、特に目新しくはない。今夏のフォーラムの特徴は、吹き始めた「新しい風」を経済団体が真剣に感じ取ろうとしたことだ。その最たる例が、日本経団連が長野県軽井沢で開いたフォーラムに、地方分権改革で話題の大阪府 橋下知事を講師に招いたことである。
 橋下知事は持論の分権改革をまくし立て、経団連も今回の総選挙を国のシステムを変えることに重きを置くよう、財界としても変革の流れに加わるよう熱く語ったという。
 「おやっ」と思ったのは、日本経団連のフォーラムでの外部講師に対する経済界首脳の夫人たちの関心だった。朝日新聞(725日付朝刊)が「地殻変動・09政権選択」で詳しく紹介しているが、 橋下知事の講演終了後にわき上がった拍手は群を抜いていたという。

経済界首脳が避暑を兼ねて催すフォーラムは、同伴の首脳夫人たちにとっても楽しく、気が置けない交流の場だ。主人たちが議論している昼は美術館めぐりなどに時間を費やすのが当たり前で、私自身の財界担当の記者経験を振り返っても、世の中の難しい問題の話しに加わることなど聞いたことはない。それが、今年は 橋下知事の講演への出席を求め、約20人が参加したらしい。
 連日のようにテレビや新聞紙面をにぎわす 橋下知事をひと目見てみたいという興味が働いたこともあるだろうが、講演に大きな拍手がわいたとなると、知事は夫人たちが余程満足するような話をしたのだろう。その婦人たちの姿を目の当たりした経済界首脳も風の変化を感じないわけにはいかない。

 もう一つ「変化」を感じさせたのが、同じ7月中旬、三重県伊勢市で開かれた全国知事会議が各党の地方分権マニフェストを具体的数字で評価することを決めたことだ。「○」「×」「△」ではなく、合格、不合格がはっきり分かる点数をつけるというのだから、評価を下される側にすれば気になって仕方がないだろう。
 もとはと言えば、分権改革に色よい返事をしながら一向に応援団に加わらない永田町に、総選挙のタイミングを捉えて知事会が突き付けた「刃」である。
 それだけではない。知事会議は「国のあり方に関する研究会」の設置も了承、継続的に国の対応を監視するという。
 研究会を設置することは、知事会議に先立って三重県が主催した「国のあり方」を考えるシンポジウムの論議を踏まえたものだ。
 シンポジウムは、三位一体改革以来、地方分権改革とは裏腹な行政の合理化・効率化が進み、地域社会全体を閉塞感が覆っている現状をどう克服するか。そのために個別の問題だけでなく中長期的な議論を進め、目指すべき将来像の構築が重要ではないか―との認識で開かれた。

経済団体の夏季フォーラム、全国知事会議はいずれも、混迷と言うより「液状化」した政権与党に対する不信感と同時に、野党の真剣度も試そうとする政治的思惑の強い告知状である。
 成長神話が音を立てて崩れた今、針路の定まらない政治を放置することは許されない。もはや、この「国のあり方」を第3者的に論じる時期ではない。そうした状況認識が出来上がっている。混迷、迷走する政治の総決算となる気配が濃厚の総選挙は、国の将来像を描くまたとない機会である。

09726日)