2009712

ラクイラ・サミット

◎首相、笑顔なく帰国

 昨日(11日)夕、イタリア・ラクイラの主要国首脳会議(サミット)から帰国した麻生首相の表情に、世界情勢を議論し終えた満足感が見られなかった。専用機から姿を現した首相は落ち着かないそぶりで機内を何度も振り返っていた。なかなか出てこない夫人のことが心配だったのだろうか。出迎える政府関係者に満面の笑みで応える姿もなかった。いつもの元気な笑顔が見られるものと期待していたが、裏切られた思いでテレビが伝えるニュース画像に見入ってしまった。
 それにしても、今年のサミットほど日本の首相の影が薄かったことはなかった。世界が直面する難題は、昨年秋からのかつてない世界同時不況、地球環境問題、核拡散問題など、例年にない具体的対応が求められる問題に各国首脳がどう向き合うかのサミットだった。
 いずれも、世界経済のけん引役となる日本にとっては他人事でない問題だ。核問題にしても、世界を敵に回すような北朝鮮の動きは、わが国に最も身近な脅威となっている。
 こうした重要案件に臨んだ麻生首相は、自ら「外交の麻生」を披瀝する場だったにもかかわらず、自慢できる個別の首脳会談はなかったし、唯一実現したロシア首相との会談も北方領土問題でふらつく政権の足元を見透かされて、何ら実りある議論にもならなかった。
 安倍首相に始まって、この3年のサミットは猫の目のように変わった3人の首相が、リレー競争に出ているように交代して参加した。毎年顔が変わる日本の首相に信を置いて各国首脳が話し合おうとならないのは当然のことだ。
 日本の外務省がいくら奔走して個別の首脳会談をセットしようと思っても、サミットはそんな甘い場ではない。外交は「武器を使わない戦争」なのだから、そんなのんきな申し出が実現できないのは当たり前である。
 サミットは当初の開催場所を変更して、地震被災のラクイラで行われた。各国首脳に被災状況を実感してもらおうと開催国のイタリアが考えたのだろうが、この被災地視察は各国首脳が喪に服するように濃いスーツで臨んだのだ。麻生首相だけが明るい白地のスーツで、いかにも場違いな装いだった。状況認識ができていないとしか言いようがない。

首相は、サミットの期間中に恒例となっている同行記者団との「内政懇」を今回は取りやめた。世界的な問題を話し合う場に行ってまで、国内政局に言及する内政懇をやること自体おかしいと思うが、内政懇は世界のどこに行こうがセットされる「定食メニュー」のようなものである。取材する方も、される方も「旅先」での裃を外した気楽な話が、その後の政局を占う格好の材料になるからだ。
 麻生首相はサミットで、各国首脳らに精いっぱいの愛嬌を振りまいていた。G8にも、オブザーバー参加の新興国首脳らにも笑顔を絶やさなかった。記念撮影の場でも、自ら中心に立つことを遠慮するように脇に身を置いた。何か思うことがあったのだろう。
 麻生政権の今後を左右する東京都議選の投開票は今日(12日)だ。首相はサミットのおさらいをする間もなく、政局の激流に向き合わなければならない。