8) ◎団塊の世代

 慶応大学の浅野史郎教授(前宮城県知事)の言葉を引用すると、団塊の世代は「目立ちたがり屋、仕切りたがり屋」で、じっとしていられない年代だそうだ。その団塊の世代が来年から定年を迎え、数年にわたって大量退職が続く。そこで起きる問題をどうするか―が「2007年問題」である。
 戦後の特徴的な世代を挙げると、中年以上なら誰でも知るのが「60年安保」世代。
 日米安保条約の改定に猛反発して「安保闘争」を繰り広げ、当時の岸信介首相を退陣に追い込んだ彼らは、以後、政治闘争から離れ、企業戦士となって日本の高度経済成長の先導役となった。団塊の世代は、その下で会社人間として働き、成長を支えた。
 国勢調査によると、日本の総人口はおよそ1億2700万人で、終戦の1945年に比べ5500万人増えた。このうち、1500万人が団塊の世代に当る。
 この1500万人が職場から解放されるわけだから、その行き先は当然気になる。培った能力・経験・技術を新たな分野で活用できれば、それに越したことはない。「目立ちたがり屋」はどこへ行く。
 だが、問題はその力を活用できる「場」があるかどうかである。
 企業は相次ぐ合理化・スリム化で、人的労働を大幅に圧縮した。ベテラン技術者に頼らなくとも、ハイテクが多くの分野で経験を上回る成果を実現してくれた。
 会社組織が効率優先ともなれば、ベテラン社員の存在感は薄れざるを得ない。こんな職場では面白ろうはずもない。
 ところが世の中、何が幸いするか分からない。
 ハイテク信仰にどっぷり浸かった企業が「07年問題」を前にして気付かされたのが、古くて新しいテーマ「人材育成」と「技術の継承」である。いずれも、これまでは口では言いながら、多様性に富んだ職場がいつの間にか問題を解決してくれ、さほど気にしなくとも済んだ。その経営者が一転、この難題に真剣に取り組もうとしている。
 ここで、別の問題が発生する。
 技術、ノウハウの継承のための定年延長、継続雇用で問題をクリアしようというが、果たして正しい考えなのか。限られた労働市場をめぐって世代間対立が起こらないとはいえない。ただでさえ、若年の正規雇用機会が少なくなっている。
 問題の根源は、定年後の生活保障をどうするかにある。社会保険庁の救い難い悪行の連続で、ただでさえ老後の不安は募る。
 団塊の世代は「目立ちたがり屋、仕切りたがり屋」だけではないが、その能力を活用しない手はない。
 既に、海外に雄飛してボランティアに生きがいを見いだしたり、国内でも地域活性化に持てる力を発揮している人は多い。そのあたりに、07年問題解決の道と知恵があるのかもしれない。
 団塊の世代が地盤沈下の著しい地方の活性化に力を発揮できる素地は十分だ。一極集中した人材を、地方の時代にふさわしく分散してもらう。地方もその能力に開放的でなければならない。
 07年問題は、新たな発想で国づくり、地域づくりを迫っているのである。

(06年夏季号、6月26日)