9) ◎自治体は襟を正せ

 福岡市職員の飲酒運転で幼児を含む3人の子どもが死亡。岐阜県庁の多額の裏金問題。横浜市、京都市も不祥事に揺れている。 
 昨年来、救い難い行政の恥部をさらした大阪市では、今度はカラ残業で全職員の7・5人に1人が処分された。総務省も「聞いたことがない」ような大量処分である。
 こんな自治体の不祥事を見せ付けられては、あいた口がふさがらない、言葉もない――といったところが庶民の実感だろう。
 岐阜県のそれは、12年間で総額17億円の裏金をつくり、仲間内で好き放題に使ったり、監査を逃れるために職員組合に移し変えたり、一部は組合員の個人口座で保管していたという。
 元はといえば、すべて、庶民が汗水たらして働いて納めた税金だ。岐阜県の職員が働いたカネではない。当時のトップの梶原拓前知事、や森元恒雄前副知事(現参院議員)らが知っていて、何らの手も打たなかった。
 梶原氏は全国知事会長として、三位一体改革で地方団体を率いて国と渡り合った、闘う知事会のリーダーである。それを補佐する森元氏は旧自治省OBで行政のプロだ。
 城代家老≠ニもいうべき副知事が裏金問題に蓋をしたのだから、話にならない。自らの出処進退を明確にすべきだろう。
 不祥事はもっとある。
 東京都町田市長選を巡って、前横浜市港北区長の石阪丈一氏(現町田市長)を支援する横浜市幹部らによる政治資金パーティー事件は、横浜市の中田宏市長や3人の副市長、収入役をはじめ88人が処分された。問題が発覚しながら的確な対応を怠り、200人以上の職員が警察の任意の聴取を受けている。
 中田氏は、国政から転じて横浜市長になり、再選されたばかりだ。さわやかさと若さで自治問題に取り組んでいたお膝元での不祥事である。
 京都市の場合は、現業部門で不祥事が相次ぎ、4月以降、覚せい剤取締法違反などで十人の職員が逮捕された。
 桝本頼兼市長の報酬50%カット、6カ月など幹部77人を処分、信頼回復と再生の抜本改革大綱を決めたが、改革工程は不透明で議会や市民は納得していない。
 首長や幹部職員が状況を認識しながら、「臭いものには蓋を」の感覚が、行政機関全体の規律の緩みにつながっている。
 「公僕」としての自覚のなさ、責任感の欠如が、分権を標榜する自治体に巣くっている現実を国民はどう見るか問うまでもなかろう。
 すべてに時代錯誤のお上意識が根っこにある。
 新しさを求めない。責任の回避。前例踏襲。公務員を見る目は、地方の自立を求める分権改革でかなり改善された。
 いやでも応でも自己評価を求められる地方行革は、避けて通れないいばらの道だ。それに耐えながら権限と財源を国から移譲させる闘いが、まさに現在の分権改革である。
 自治体の自己改革は、組織の合理化・スリム化や政策の選択と集中にとどまるものではない。職員自身の弛まない努力、教育があって自治体が生まれ変わるのだ。
 人事院は勤務態度や職務実績に問題がある国家公務員を「分限処分」する運用基準をつくるという。三重県が最近始めた職員に対する「特別研修」は、その自治体版だろう。
 多くの自治体が見て見ぬ振りしてきた問題職員≠ノ対する再教育≠ナある。世間常識から、許されるはずもない職員を放置したままでいることは、住民に対する裏切りである。
 地方自治体の規律が示されてこそ地方分権は説得力を持つ。
 自治体の不始末を、霞が関の官僚はどう見ているか。官僚の高笑いが聞こえてきそうである。分権を主張する自治体は「李下に冠を正さず」を肝に銘じてほしい。

(06年秋季号、9月29日)