10) ◎言い訳は要らない

 「知事自身が民意に背き初心、熱意や志を捨ててしまったとさえ思われる」
 暮れを控えて開かれた政府主催の全国知事会議での安倍首相のあいさつは、一連の「談合・贈収賄事件」に猛省を促す内容だった。首相が言わんとしたのは、地方分権を主張する自治体の矛盾を指摘したことはもちろんだが、それ以上に自らの改革の足元を揺るがしかねない事態への危機感を表したと見た方がいい。
 福島県に始まる和歌山、宮崎両県の県政トップの辞任・逮捕は、自治体行政の暗部を浮き彫りにした。市長、町長も含めると、全国で既に10数人の逮捕者が出ている。
地方行政への不信は、いずれ国政に押し寄せる。発足間もない安倍政権としては看過できない。そんな意味も込められている。
 1993年のゼネコン汚職以降、知事にとって最大の仕事は談合を根絶するための入札制度の改革と情報公開だった。中央政界とのしがらみのない新進の知事が次々と登場、地方政界に新風を感じさせた。
 だが談合体質はなくならず、改革派知事をも蝕んでいたのである。全国知事会は、プロジェクトチームを立ち上げ、談合の再発防止を検討している。各自治体も、公共事業に巣食う汚職構造をなくすよう、退路を断つ気構えで取り組むべきだ。
 福島県に始まる「知事の犯罪」の背景は、多選による澱み、個人的資質、政治土壌、地域性などが挙げられている。
一連の事件は、国政からの転向である福島県、官僚OBの和歌山県、そして県庁職員からトップに上り詰めた宮崎県と出身母体も経歴も違う。在任も長期の5期から、2期、1期である。3人はそれぞれ中央政治を知る実力者であり、行政のプロ、県庁組織を知り抜いた人物だ。その3人が、官製談合という同じ陥穽にはまった。
 言われているような背景が複雑に絡み合って事件は起きた。その源流は何か。
 浅野史郎・慶応大学教授(前宮城県知事)は、諸悪の根源は選挙だと断じている。知事になろうとする者にとって「選挙は恐怖だ」。その恐怖感を和らげるのが組織の応援だ。そして当選の暁には、その対価を一種の権利として要求されるというのだ。
 しかし、選挙と組織・団体の支援を切り離すことは難しい。であれば、自治体は、支援団体等が見返りを求められないような制度を明示、併せて職員のモラル向上、罰則強化を徹底すればいい。
 ゼネコン汚職を経験しながら、現状は地方自治体が抜本的な入札制度の改革をしてきたとは言えない。一般競争入札価格は様々で、談合がつけ込む隙が是正されていなかった。
 ここにきて、談合事件の摘発が相次いだのは、1年前の独占禁止法が改正され「密告奨励」が導入されたことが大きい。正直に談合を申し出れば、課徴金などの処分が免除、ないし軽減されるルールができた。
 法改正で鉄の団結を誇った談合体制が切り崩され、密告件数も増え、その内容も具体的になった。その結果、捜査当局は競争入札妨害罪を容易に使えるようになった。そして、競争入札妨害罪は贈収賄事件につながる。事件がさらに拡大、「談合列島」などと言われないよう祈りたい。

(07年新年号、06年12月25日)