11) ◎パフォーマンス

 タレントの東国原英夫(そのまんま東)氏が宮崎県知事に当選して3カ月余になる。
 就任直後を見舞った鳥インフルエンザ問題は表面的には沈静化したが、東国原県政は「オール野党」の県議会を相手に真価が問われる長い道のりが始まった。
 県政運営の補佐役となる副知事人事を巡るごたごた、模様眺めの県庁職員、透きあらばと待ち構える県議会など、知事選を圧勝した東国原氏の前に立ちはだかる壁は、日を追うごとに厚く、高くなるだろう。
 知事は就任直後から宮崎の売り込みに駆け回った。東京に足しげく通い、深刻な鳥インフルエンザ問題も逆手に取ったパフォーマンスで乗り越えて見せた。
 東京で開いた県の物産展で地鶏を頬張って安全をPR、会場に集まった都民の喝采を浴びたのも、タレント出身ならではの演出だ。
 知事は反論するだろう。「演出ではない。真剣に問題に向き合っているのだ」と。
 パフォーマンスが悪いと言っているのではない。
 政治家にはパフォーマンスが必要だ。パフォーマンスなき政治は庶民を引きつける魅力を欠く。政治に魅力がなければ有権者は離れる。行政のプロであっても、官僚出身者の多くが有権者の心をつかみきれないのは、そのせいだろう。
 マニフェストの有用性が叫ばれている。政治とマニフェストは切り離せない今日では、その内容を説明するだけでは説得力はない。パフォーマンスがないようだと、行政に素人の気持ちは素通りしてしまう。
 まして、政治不信が高じている今日は、有権者が何を求めているかを的確に受け止め、行動で表現することが必要だ。
 12年前、東京都知事選と大阪府知事選で青島幸男氏と横山ノック氏が当選した。当時も「青島現象」「ノック現象」と言われ、政治不信の表れとされた。
 今回の宮崎知事選の結果も「そのまんま現象」とマスコミは名付けた。12年前と違うのは、人口115万人弱の宮崎と、スーパー自治体の東京、大阪とは比べものにならないということである。宮崎は小さいだけ、県政と県民の距離が近い。そこでの圧勝の持つ意味は違う。
 新幹線新駅の建設を争点にした昨年7月の滋賀知事選は、建設反対の嘉田由紀子氏が現職を負かした。「小泉改革への反対意思表示」という声がもっぱらだった。
 現職知事が関与した官製談合事件での逮捕・起訴が相次いだ。格差社会の顕在化は、国と地方の関係を問い直している。
 目前に迫った統一地方選から、改革派として存在感のあった2人の知事が退場した。安倍首相の求心力を欠いたまま、分権改革は第二ステージを迎えている。地方政治は国政と無関係ではあり得ない。地方の悪習をさらした官製談合や行政主導の自治体経営を監視する住民の目は厳しい。
 「…現象」は、有権者の欲求不満と期待の表れだ。故に、一時的な現象であってはならない。地元向けのパフォーマンスは、対立軸として国にも挑戦的に向けてもらいたい。併せて、国に言われるまでもなく地方行政の改革の実を上げなければブームは、はかなく消える。

(07年春季号、3月22日)