13) ◎地方の反乱

 地方分権改革がなぜ重要なのか。応えは、それが日本という国のあり方を左右する道標だからである。ところが、「格差」となって表れた構造改革の歪みは、この道しるべをあいまいにしてしまった。先の参院選の結果は、政府・与党に真の分権改革の認識がまるでなかったことを浮き彫りにした。
 自民党の参院選惨敗を受けて発足した安倍改造内閣は、惨敗が地方の反乱だったことが身に染みて地方活性化、地域間格差に不退転の決意で取り組むことを約束した。改造内閣の目玉人事となった増田寛也前岩手県知事の総務相就任は、内閣の地方への強いメッセージだった。
 ところが、政治とは分からないものだ。逆風の下で再スタートを切ったばかりの安倍首相が突然辞意を表明した。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議から帰国し、臨時国会で所信表明をした翌日の代表質問が始まる直前のことだ。
 安倍退陣が本稿の目的ではないから詳しくは触れないが、安倍政治とはいったい何なのかと思わざるを得ない。小泉構造改革の痛みに地方がもがき苦しむ姿を知りながら、安倍氏は「改革の続行」を叫び、「戦後レジームからの脱却」で「美しい国」をつくろうと大風呂敷を広げた。わずか1年前のことである。
 行政の難しさをさほど経験することもなく国政のトップの座を射止めた安倍氏は、構造改革の先にある将来展望を示さず、現実に目をつぶった精神論を威勢よくまくし立てた。地方分権改革は内閣の最重要課題の一つと位置付け、道州制も「国の形をつくる柱」と語り、自らの「国家像」とだぶらせて強力に推進するよう指示していた。
 安全保障問題、教育改革などとともに、分権改革は「戦後レジームからの脱却」に欠かせない政治課題だったのだが、安倍氏の目は閉塞状態の内政から目をそらすように、集団的自衛権、テロ特措法の延長という外交、安保問題に軸足が移り、内政問題はすっかり影が薄くなっていた。
 結局、退陣を決定付けたのは、会見でも述べたようにテロ特措法の延長が困難になったからとの認識だけだ。当面する内政の懸案を、忘れたような会見を見た国民の、どれだけの共感を得たか疑わしい。
 分権的な視点から見れば、確かに安倍内閣の足元はおぼつかなかった。一昨年11月末に決着した三位一体改革は、安倍氏が官房長官として指揮したのだが、永田町と霞が関の抵抗は最後まで続き、結局、族議員と官僚の矛を収めさせたのは中川秀直自民党政調会長と竹中平蔵総務相(いずれも当時)である。
小泉前政権の改革路線を引き継いだ安倍内閣は、政府・与党の「改革疲れ」と逆に第二期分権改革を迫る全国知事会など地方6団体に挟まれて、実のある具体的な分権改革のメニューを用意できなかった。
 後継政権が直面するのは、権謀術数が渦巻く政局である。内政、外交の重要課題と絡み合いながら与野党の攻防が続くのは間違いない。来年度予算編成作業も始まり、霞が関は繁忙期を迎えている。もちろん、地方団体も来年度の施策に向けた永田町・霞が関詣で動き出す。
 政府、与党は、地方活性化、格差是正策から逃げて通れない。解散、総選挙が現実味を帯びだしているからだ。地方団体は、今まさに政局に弾き飛ばされない覚悟が求められている。

(07年秋季号、9月25日)