◎分権委勧告と食料政策

国と地方

 地方分権改革推進委員会が福田首相への第一次勧告をまとめたとき、取材記者団から最初に飛び出したのは、国土交通省所管の「国道」と「一級河川」の取り扱いだった。
 「もっと強い勧告ができなかったのか」という質問である。
 国土の一体的整備・管理を主張する国交省にとって、直轄国道と一級河川は「聖域」である。そこに「手を突っ込もうとした」(自民党筋)委員会に同省が強く反発したのは当然だ。
 しかし、道路を巡っては道路財源のデタラメな使われ方に対する国民の反発がボディーブローのように効いていた。さしもの国交省も直轄国道、一級河川の整備・管理を一部地方に移譲する回答を示さざるをえなかったが、委員会が納得する内容ではない。
 記者団の質問に丹羽宇一郎委員長は、国交省に対する不信感を隠そうとはしなかった。

 だが、道路、河川にも劣らない重要な問題は、農林水産省に関連する土地利用(開発・保全)である。食料問題と切り離せないそれは、国民の生活に直結するだけに、道路、河川の扱いを超える国家的戦略が求められる。

 現状は、農地面積の増加は見込めないだけでなく、農村の疲弊などで減少も避けられない。先進国の中で食料自給率が最低の日本は、優良農地の確保と農業政策の抜本的な見直しが急務だ。
 ところが農水省は、大規模農地の転用許可を都道府県に移譲するよう求める委員会の方針に最後までゼロ回答だった。結局、勧告は農水省の主張を突き放した転用許可の移譲を明記した。

 丹羽分権委員長の農政批判は激しい。
 農産物生産がGDP比で40年前の6分の1の1・6%になり、「日本の農業は衰退するためにやってきたようなものだ。コメの消費を増やす努力を全くしていない」と経済人らしく、企業経営を例に挙げながら農政の不備を切り捨てた。
 勧告に収まらないのは農水官僚だ。そして、自民党の政調幹部らでつくる地方分権改革特命委員会の会合も、怒りが渦巻くような委員会批判が相次いだ。
 勧告にぶつけた各省庁の反発、委員会不信は、地方分権改革推進本部や「骨太の方針2008」を意識したものである。

先進国最低の食料自給率と政府の農業政策を切り離して考えることができないのは、中山間地の疲弊を見れば明らかだ。
 食料問題は分権委の勧告を待つまでもなく、首尾一貫しない農業政策に対する不満は誰もが抱いている。地方の首長や農業関係者の農政不信は、政策に一貫性がないことと、農村や農業の現場を政策当局が十分把握していないことからきている。
 町村官房長官が減反政策の見直しを求めたのも、世界的な穀物価格の高騰・不足をにらんだ農政の抜本的な改革が必要だとの認識からだ。
 ローマでの「国連食料サミット」は具体的な成果が得られないまま閉幕したが、食糧問題は農水省の枠を超えた国家戦略の重要課題であることは間違いない。

 世界的な食糧問題に併せたような分権委の勧告が出された状況認識を忘れてはならない。「食」の問題は国内的であると同時に、極めて国際的な広がりを持つからである。

08年夏季号)