1) ◎ローカル・マニフェスト

 記録づくめの猛暑とメダルラッシュにわいたアテネ五輪のせいでもあるまいが、自治を求める地方の動きは奔流になったようだ。
 地方6団体の補助金に関する政策提言、そして9月8日、東京・新宿の早稲田大学で開かれたローカル・マニフェスト検証大会は、新しい自治の息吹を感じさせた。検証大会の討論は、報告者の増田寛也(岩手)、上田清司(埼玉)、松沢成文(神奈川)、西川一誠(福井)、古川康(佐賀)各知事が、施政の柱として掲げた具体的な数値目標を示した「マニフェスト」を説明。これを大学教授やNPO代表らが検証・評価するもので、県政のあり方が公開の場で問われるのは異例な出来事と言っていい。
 検証の基準はマニフェストの①理念、ビジョン②行動計画などの実行過程③成果―を踏まえて総合評価をする形をとった。全員が比較的高い合格点を得た。だが、これは改革への期待値も考慮したものだ。一方で、県民の認識度がまだまだ足りないことや、財源問題が立ちはだかっていることは、三位一体改革の成否とも絡んで、今後の大きな課題であることを浮き彫りにした。
 増田氏を除く4人は昨年の統一地方選で当選した新人知事である。西川、古川両氏は、ともに総務省出身だが、副知事を経験して知事になった西川氏と、佐賀県の課題にずぶの素人だった古川氏に、同じ官僚出身とはいえ違いが表れるのは当然だ。手堅く庁内態勢を固めた西川氏に対し、古川氏は、20年の役人生活で思い描いた青写真を書いた。末端職員も参加したマニフェスト検討会を何度も開いて、自身のマニフェストを補足・充実させ、政策実行方針に転化させた意欲は買っていい。
 政策・制度に通じた官僚OBが行政の仕組みを変えることは容易だが、国会議員から転向した松沢、上田両氏を待ち受けていたのは地方政治の「現実」だった。松沢氏は圧倒的多数の野党の厳しい攻撃にさらされ、その上、マスコミの批判も強かったという。上田氏は、身内の不祥事で辞任した前知事の後を受けただけに、政治不信の解消に優先度を置かざるを得ず、ビジョン・理念もスローガンの域にとどまっているものが多いと批判された。
 新人知事に比べ、3期目の増田氏は、改革派知事の代表的存在であることを地元でもいかんなく発揮したようだ。8年間の実績は説得力があり、社会資本の未整備な岩手県で「公共事業の3割削減」なども増田氏のリーダーシップを感じさせる。
 検証大会には地方公務員、一般市民も多数参加した。国会議員、地方議会議員の県会議員の姿も目立った。執行部の変革に議員側も知らんぷりできなかったのかもしれない。会場を埋めた参加者は約1000人に上った。
 大会を仕掛けたのは、マニフェストの必要性を訴え続けてきた北川正恭早大大学院教授(前三重県知事)である。当選するための選挙公約が意味を失いつつある中で、国政に先んじてローカル・マニフェストが産声をあげた意義は大きい。そして、北川教授が言うように、この小さな気流の乱れが巨大な嵐を引き起こすことになれば、日本も変わるだろう。

(04年秋季号、10月8日)