2) ◎自治と米軍基地

 操縦不能になった米軍ヘリが墜落、炎上し、真っ黒な焦げ跡が生々しい沖縄国際大学(沖縄県宜野湾市)構内の痕跡を目の当たりにした。昨年11月下旬、同大学で開催した日本自治学会の研究会に参加したときのことだ。事故は8月に起きた。幸い地域住民に人的被害はなかったが、付近は住宅が密集、中高層のマンションも立ち並んでいる。まかり間違えば、大惨事になっていたはずだ。
 沖縄で続発する米軍関係の事件・事故ほど国と地域の関係を考えさせるものはない。地域の自主・自立は沖縄の場合、常に外交・安保問題が絡んでくる。外交・安保はもとより国の専管事項だが、地域住民の生命・財産が脅かされる事態は専管事項うんぬんで片付けられるものではない。米軍ヘリ事故は、沖縄の現実を浮き彫りにした。
 事故発生直後、米軍は間髪を容れず現場を封鎖した。沖縄県警も事故機の検証、現場検証に手を出せなかった。理由は、日米安保条約の効果的運用を図るための日米地位協定および日米合意事項だ。平たく言えば、基地外の事故であろうが、米軍の許可がなければ日本側は、米軍の「財産」に手出しができない。
 米兵が引き起こす凶悪犯罪についても、日本政府は容疑者の身柄引き渡しについて米側の「好意的配慮」を約束させただけの地位協定の「運用改善」で事を済ませた。国内法の順守など、どこにも見当たらない。重金属による土壌汚染などの環境問題も深刻だが、米軍の責任は不問だ。
 日米地位協定は1960年の日米安保改定に合わせて締結されたが、今日まで条文の改定はない。沖縄県は、現状にそぐわないとして抜本的な地位協定の改定案を政府に示し、国会でも改定を求める議員連盟が発足している。だが、政府は「運用改善での対応」を変える気は全くない。
 政府が運用改善にこだわるのは、米軍側への有利な特権を弱めることによる在日米軍の基地機能の弱体化を懸念するからだ。しかし、世界的規模で米軍の変革・再編計画が進むこの時期こそ、沖縄の基地問題を解決に導く、またとない機会と見るのは外交の常識だ。米国に物申せない日本外交のお粗末さが、基地問題に悩む沖縄県民の多くを苦しめているのである。
 政府は、沖縄の本土復帰に当たって県民所得を全国平均の8割に引き上げることを目標にした。沖縄振興開発特別措置法に代わる現在の沖縄振興新法は「選択と集中」をキーワードに自立を追求するものだ。
 しかし一方で、復帰後の7兆円に及ぶ財政投入で出来てしまった沖縄の財政依存体質が、今日的課題である自治・分権にどうつながるのか疑問の声も少なくない。沖縄の歴史的、地理的特性を生かした特別な「一国二制度」導入の声もあまり聞かれなくなった。そして、北海道の道州制特区と並ぶ「沖縄州」構想も、県の行政レベルでは俎上に載っていない。
 沖縄が求める自治は、行政の仕組みを変える本土の分権改革とは本質的に異なり、米軍政から住民の生命・財産を守る自治の闘いの歴史を背景とする。基地問題を自ら解決できる態勢の構築が沖縄における自治の原点と言っていい。そこに今日的な沖縄の自治・分権の複雑さ、難しさが潜む。

(05年新年号、05年1月8日)