3) ◎全国知事会長

 今日ほど地方自治体が注目されるのは、1965年前後から70年代初頭にかけての時期以来だろう。当時、仙台、東京、神奈川、横浜、大阪、京都など太平洋ベルト地帯の主要自治体を革新陣営が席巻、革新首長が国を相手に一歩も引かない自治行政を展開した。日米安保や沖縄返還問題をめぐる政治的対立に加え、高度成長がもたらした公害、福祉、住宅などの諸問題が深刻化、革新自治体が独自の施策で国に挑戦した時期である。
 だが、この革新行政の勢い・自治の挑戦も、安保の終えん、高度成長が終わって顕在化した財政問題をテコにした国の反転攻勢で抑え込まれ、国と地方の政治・行政両分野での闘いは以後、表面化することはなかった。
 こんな昔話を持ち出したのは、国と地方の対立がかつては政治的イデオロギーのぶつかり合いだったが、今は、行政の仕組みを知り抜いた官僚OB首長が、真正面から分権改革を目指して行政の全面的な組み直しを求めている、時代の変化を強調したかったからだ。
 47都道府県知事が集うサロンでしかなかった全国知事会が、「闘う知事会」となったのは一昨年のこと。以来、激しく国と渡り合ってきた梶原拓前会長が退任。代わって麻生渡福岡県知事が就任して1カ月半が経つ。
 麻生氏は、前会長の闘う路線を継承、さらに「闘い、成果を勝ち取る」知事会に発展させると強調。そのために地方6団体の結束を図り、国との交渉力を強化するという。巨大な官僚組織と闘わざるを得ない地方団体が結束しなければならないのは当然だが、各論に入った三位一体改革で地方側には、乗り越えなければならない幾多の難問がある。
 昨年11月に決まった改革の「全体像」は、地方案は実質的に取り入れられていない。最後までもめた義務教育費の国庫負担金も、今秋の中央教育審議会の結論待ちで、廃止の保証はない。中小自治体が注目する公共事業の扱いも不透明だ。
 麻生氏は特許庁長官を務めた旧通産官僚出身。昨年来の三位一体改革論議では目立つような発言はなかった。調整型政治家で、梶原氏をはじめとする改革派知事とは一線を画した存在だった。前回の会長選に意欲を示したが、梶原氏有利と見て見送った経緯があるという。今回の出馬は、「満を持して」だった。
 今度の会長選は旧自治省、通産省OBらの多数派工作があったことも否めない。選挙には付きものかもしれないが、改革の手法をめぐる微妙な知事の思惑の違いが表れたともいえる。梶原氏の下で、しゃかりきに走り回った行動派知事が、今後も同じように熱く動くかは定かでない。独特なリーダシップを発揮した前会長の時とは、違った性格の知事会となるかもしれない。
 新会長就任に霞が関官僚は「話し合える相手」とするだけで意外に反応は静かだった。その雰囲気は今も変わっていない。「成果を勝ち取る」と麻生氏は言うが、官僚に緊張感が希薄なのも事実である。麻生氏がハードネゴシエイターであるか否かは、そう遠くない時期に分かるだろう。

 (05年春季号、3月30日)