4) ◎知事とブレーン

 激務の知事職をこなすには体力と知力が欠かせない。だが今は、もう一歩進めてはかりごとを巡らす知略があるかどうかが問われている。
 知略の限りを尽くして国と切り結ばなければ、巨大な権力を持つ国を寄り切ることはできない。国と地方の闘いは、守旧派との知恵比べの段階をとっくに越えた。
 変革・分権時代の今日、かつて見られた議会の多数与党に支えられて、神輿(みこし)に乗って多選を当たり前のように続けた知事は、もはやお呼びではない。
 そんなことを考えながら5月中旬、三重県・四日市大学で開かれた日本行政学会研究会の「知事を支える人々―内と外からのアドバイス」の報告が面白かった。
 報告者は、身内の不祥事で辞任した埼玉県の土屋義彦知事のアドバイザーを年余務めた大森弥・東大名誉教授。熊本県の故福島譲二氏と潮谷義子現知事の2代に続けて仕えた黒田武一郎・総務省自治財政局交付税課長、そして前全国知事会長の梶原拓・岐阜県前知事の手足となって動いた佐々木浩・岐阜県知事公室長の3人。
 大森氏と土屋氏は「偶然の出会い」。
 土屋氏は参院議長を経験している大物政治家である。知事選立候補に際してアドバイザー役を求められ、公約・政権構想づくりを手始めに、当選後は前の革新県政路線から行政の針路を転換させることに心を砕いた。
 幹部人事も含めて実務機構を機能させなければ改革はできない。その前段として常に組織に内在する更迭人事への不安をどう払しょくするか。
 改革に対して腰が引けた職員をやる気にさせるための「激励と脅し」は、組織に縛られない外部助言者にしかできない。それだけに知事との良き関係をどうつくるのか。助言者は知事のライバルになってはいけないし、同時に一切の見返りを求めてはいけないという。
 黒田、佐々木両氏は、ともに総務省から出向した県庁幹部。おのずと大森氏とは役割は異なる。
 知事には行政官と政治家としての二つの顔がある。そして、政策決定に当たっても庁内意見を積み上げる「ボトムアップ」型と知事自らが政策を方向付け指示する「トップダウン」型に分かれる。
 黒田氏は年の役人生活の3分の1を熊本でおくった。財政課長、総務部長そして最後は副知事である。
 福島知事の急逝で、急きょ副知事からトップになった潮谷氏は福祉の専門家だが、行政全般に通じているわけではない。
 大蔵(現財務)官僚で佐藤栄作首相の秘書官、政界転出後は労相(現厚生労働相)を務めた福島氏は、万事に指導力を発揮した。
 知事になったとはいえ、潮谷氏にそんな力はない。その足らない部分を黒田氏が副知事として支えた。伝統的に保守的な土地柄。議会対策は容易ではない。議会答弁の手引きは福島氏の教えを生かした。
 佐々木氏は、闘う知事会を掲げた梶原氏差配の下書きを全身で受け止め岐阜県内はもとより、全国知事会長としての行動シナリオを作った。
 改革は国だけが相手ではない。地元改革でも成果を上げなければならない。梶原氏は典型的なワンマン型知事。知事の突然の指示をどう判断して形にするかは知事公室長の役割。組織再編で知事公室を筆頭部に格上げ、政策の理念・戦略の命令系統が確立した。
 率先実行型の改革派知事であっても、それが説得力を持って県庁マシーンを動かし、全国的な流れをつくれるか否かは、幹部を含めた職員全体の意識変革にかかる。それを引き出すのが知事を支える者の責任である。
 併せて、有権者の意識も変わらねばならない。行政の善しあしは、間違いなく住民に返ってくるのだから。
 (05年夏季号、7月1日)