福島県矢祭町が全国の善意で
開いた図書館は、40万冊を超える
書籍がそろい、小さな町に新たな
元気をもたらした。
「もったいない図書館」には幼児から
お年寄りまで多くの町民が訪れる。

「もったいない図書館」はこんなに元気です

高信由美子

梅雨の晴れ間、お母さんに手を引かれた幼い女の子が「今日はいっぱい、いっぱい本を借りていくよ」と声をはずませながら「矢祭もったいない図書館」にやってきます。
 もったいない図書館に隣接する教育委員会勤務の私にとって一番うれしいひと時です。
 皆様からご寄贈をいただいた図書で開館した「矢祭もったいない図書館」には、連日、元気な子どもの歓声が響きます。また、県内外からたくさんの方々が見学においでになっています。
 私は「これから100年後に矢祭町からノーベル文学賞や科学賞受賞者が出るんですよ」と豪語しています。
 所蔵する図書は約44万冊になりましたが、ご寄贈いただいた図書には励ましのお言葉や図書につながる思い出のお手紙が綴られておりました。
 お手紙も大切にファイルし、収納いたしましたが、私たちはたくさんの図書と一緒に全国の皆様から温かい心をいただきました。

 昨年1028日には、「読書の町矢祭宣言」を行い、町内25カ所の地域集会施設に「矢祭もったいない文庫」を設置しました。
 地域の文庫に住民が集い、家庭と地域に読書の輪が広がり、地域が文化的に活性化していくことは、図書をご寄贈いただいた全国の皆様のご厚意に報いることです。
 また、図書の利用だけでなく、各地域の集会施設を核として地域社会維持のためにも、地域住民が主体的にまちづくりに取り組むことをねらいとしています。

 宣言文には、
 1. 全国からの寄贈図書による「矢祭もったいない図書館」は町の大きな財産であり、私たち町民は全国の善意に感謝し、子々孫々に伝えていきます。
 2 「矢祭もったいない図書館」を知の拠点とし、町民が書物に親しみ、書物を通して自分で問題解決する能力を身につけます」と謳いました。

もったいない図書館を利用する方の中に86歳の女性がおります。毎週3冊の本を読破します。「子どもの時から本は大好きでしたが、弟や妹が次々生まれ、その世話をすることで精一杯、本を読むことなど、夢のまた夢でした」と遠い昔を振り返り、
「立派な本をいただいてありがたい」
を繰り返します。
 白内障の手術を完治してからは老眼鏡もかけずに、「太平記」、「方丈記」、「宮本武蔵」「蔵」、「篤姫」と読破した本は歴史ものから小説と数え切れないくらいです。

 また、千葉県に住む大学教授はもったいない図書館を訪れた際に、中国語辞典の欠番があることに気づき、再度来館して、自分の持っている辞典の中から欠番の2冊を寄贈して全部を揃えて下さいました。
 学校が終わって家に帰っても、仕事などで夕方まで親が帰ってこない子どもたちのために、「もったいない図書館」を自宅学習の場に提供しています。図書館で宿題が終わったら、図書館のカウンターに立たせて、図書の貸し出しを手伝います。

図書を借りるというサービスを受ける立場から、サービスを提供する立場に立たせ、大人と一緒に関わりを持ち、社会性育ませたいと思います。
 図書館らしくないと専門家の方々にはお叱りをいただくかも知れませんが、どんなものでも多目的に利用してしまう矢祭方式ということでお許し願いたいと思います。

 今、図書館の外壁が殺風景なので、この外壁にトリックアートを描いたら、楽しさが倍増するのではないかと考えています。
 どなたか、この外壁にトリックアートを描いてくださる方を探しております。
 人口6,900人の町ですから、願わくばたくさんの赤ちゃんから高齢者まで、もったいない図書館の外壁に描いてしまいたいのです。
 カラーペンキを準備してお待ちしております。

                福島県矢祭町教育長