平成20年5月、三重県大台町大杉谷林間キャンプ
村周辺で開催された三浦漁業協同組合(紀北町紀
伊長島区)主催の植樹・育林作業。
山は海の恋人。豊かな海は山によって育てられる。
(三重県ホームページから)

  環境に優しい「国産材」の家をつくるために

                     豊田 由紀美

 数年前、30代のご夫婦から「自然素材を使った家に住みたい」という相談がありました。彼らは三重県熊野市の森林で行われた間伐体験にも参加され、県産材を使用して家を建てたいと言うのです。早速、東紀州の森林について調べ、尾鷲や海山の山を見て歩き、熊野の材木屋さんにも相談に行きました。
 結果、建てる場所は三重県でも北勢地域にある亀山市なのですが、熊野の杉と東紀州の桧を構造材に使用し、えつり荒壁の伝統工法の家が完成しました。特に外壁はご主人の出身地である土佐漆喰と熊野杉の鎧張りといった、現在では珍しい本格的な和風建築が完成しました。大工や左官の素晴しい技はもちろんのことですが、木製建具や土間の三和土など、既製品を極力使用しないで造りました。

通常はここまでこだわりを持った施主はなかなかおられませんが、ハウスメーカーの住宅ではなく、出来るだけ自然素材で造って欲しいという方々は沢山みえます。それでも、昔ながらの間取りや工法で造られた家に皆が住みたがらなくなりました。現在の暮らしに合わないからというのが理由です。
 昔、田舎では家を建てる時、近くの山の木を必要なだけ伐採し、自然乾燥をさせて使ったそうです。地元の山で育った木はその地方の気候にあった育ち方をしているので暮らしやすいとか、家を建てる際でも、隣近所の人たちが出会い仕事で手伝ったりすることが常識だったと聞いています。しかし、現在では、それは不可能に近い話になってしまいました。

国産材は高価なものとされ、安い輸入材を使い、合板をはじめとする工業製品をふんだんに使った家を造り続けた結果、地元の山は手入れが出来なくなり、山が荒れて災害時には崩れて道路が遮断されたりしています。
 地元、亀山市でも、林業自体の採算が取れなくなり、かろうじて間伐された木も市場に出るのではなく、山で腐らせているといった状況です。
 今まで、外国の森林をむやみに伐採して国際的にも非難されたり、燃料を使って運ぶので地球温暖化を進捗させたりと、ずっと良くないことを続けてきました。
 最近ようやく、そういった問題を重要視するようになり、行政や企業、NPOの方々が森林の保全活動に力を入れておられます。三重県の森林の多くは人工林ですが、手入れされずに放置され荒廃した山を再生させるため、間伐や下草刈りなどの施業を行っておられるのです。
 こういった活動は土壌の保水力を回復させ、地域の水資源の確保につながり、森の養分が川を伝って海に流れ込み、豊かな海の恵みにつながるそうです。

私は「みえの道・女性会議」のメンバーとして県内の道路整備促進に関しての活動を続けていますが、その中で、「道路が災害で壊れるのは森林が荒廃しているからだ。道路を守るには森を守らなければならないのでは」と国交省に訴えて来ました。
 道路特定財源を他の財源にあてるのならば、是非、森林保全に使って欲しい。それが結果として地域の道路を守ることにつながるからという理由です。
 又、建築士としての立場から考えると、森林保全は地球温暖化をなどの環境対策としてだけではなく、昔のように、建築資材としての役割を十分果たせるようにしたい。そのために私たちに何が出来るかを考えて実行しなければなりません。

来年度には特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律が施行され、住宅の造り手にその責任を履行するための資力の確保を義務付けることとなり、多くの施工者は住宅瑕疵担保責任保険への加入を選ぶことになります。
 その保険加入の条件として、より良い住宅の品質確保を求められることとなり、使用する木材の品質についても厳しい条件を課せられるのではないかと予想されます。
 そこで、安易にリスクの少ない工業製品の使用に走らず、建築資材として国産材の利用を続けるための努力をしていかなければならないと思っています。

先日も、より多くの建築に携わる人たちに地元の山の実情を知ってもらうために、林業家を講師に招いてセミナーを開き、ワークショップで様々な問題提起とその解決方法についてのディスカッションを行いました。
 このように、作り手である私たちがもっと木材についての勉強を積み、その上で使う側の皆さんに、住宅建築にとっての国産材の良さを理解してもらえるようなアピールを行っていきたいと思っています。
 1人でも多くの方が「木」の家に住みたいと思えるように、そしてその想いが実現出来るように、今後も活動を続けていきます。

                 (一級建築士・三重県亀山市