◎人が輝く瞬間(とき)
今里里美
わたしがいつも乗っている近鉄京都線のある駅で目にした光景である。
その日の夕方、駅の階段をホームへと急いで上っていると、上の方から「重いでしょう。すいません」という若い女性の声が聞こえてきた。
ふと、顔を上げると、そこには赤ちゃんを抱いたお母さんと、ベビーカーを両方から支え、階段を下ろしている年輩のご夫婦の姿があった。
年の頃なら70歳をこえたぐらいだろうか。
この駅にはエレベーターがなく、ベビーカーをおしたお母さんたちは、自分で赤ちゃんごとベビーカーを抱えて降りるか、階段の上から駅員さんにインターホンで連絡し、助けを呼ぶかしかなかった。
階段の上で、躊躇しているお母さんを見かねて、年配のご夫婦は手を貸したのだろう。
最近のベビーカーは軽くなっているとは言え、重く運びにくい。
しかし、顔を上気させ、ベビーカーを運んでいるご夫婦の顔は、満面に笑みがあふれ、本当にうれしそうに輝いていた。そして、赤ちゃんとお母さんを見る目は優しさに満ちていた。
いつもは、「おじいちゃん、おばあちゃん、大丈夫?」と気遣われ、助けられる立場だろう。でも、今日は違った。今日は二人が赤ちゃんとお母さんを助ける番だ。
人に助けられることはうれしい。
でも、人は、人に頼られ、人のためになっていると実感できる瞬間、もっともっとうれしくなり、輝くのだなと思った。
「人は助け、助けられて輝くのだな」「人っていいな」と思いながら、通り過ぎる4人を見送った。
(京都府政策企画部 計画課)