協働と小さな行政

                        木下美佐子

寄稿

「協働って?」「小さな行政って?」
 このことを頭の片隅に置きながら、身近なことで気楽に書いてみようと思う。
 先ごろ、と言っても現今のように月日が流れるように過ぎ去っていく中では、5月18日(日)となるともう遠い過去のようにも感じてしまう。
 その日、三重県津市香良洲で「藤堂高虎」街道ウォーキング9.3キロイベントが催された。
 この事業は合併2年目の新生津市が「藤堂高虎公入府400年記念事業」として、合併した10地区を1年かけて展開する街道ウォーキング(8〜12キロ)。市民が提案した目玉の事業である。
 (藤堂高虎公式HP:http://www.tsukanko.jp/takatora/

 津市が主催と言っても10地区の支所が主体となって任されたもので、こうしなさいとか、こうしなければならないという指示があるものではないと伺っている。
 そこで私は、この機会に10地区を全て体験し、地域の取り組みを肌で感じてみようと思い立ち参加することにした。7月末現在6地区が終わった。(残念ながら雨天に負けて1回欠席)
 同じ津市でも地域間の取り組みに「これだけの違いがあるのか」と思ったので、今回まだ終わってはいないが書いてみようと思う。

☆         ☆

 まず私の地元香良洲での取り組みを紹介しよう。
 支所長自らが、地域のボランティア関係の責任者、自治会、消防関係者、警察、保健師等々行政職員以外の方々にも声をかけ、まず話し合いの場を持った。
 私はUD(ユニバーサルデザイン)まちづくりの会および健康教室の責任者ということで話し合いに参加したのである。
 支所長からの説明を聞き、このような機会を通して地域の人々の連携「町おこし」と行政との協働を意識して、この事業に取り組みたいというのが真意だと私は理解した。

 新年度が始まってまもない5月であり、当日までの話し合いを持つ時間もなかなか調整が大変であったが、3回の話し合いを持つことができた。
 まず、香良洲の何をアピールするのか、何を参加賞にするか、そして安全面をどうするか―等々安い事業費の中、皆で知恵を出し合った。
 私も会員や地域の方々に話し合いの流れを説明したり参加を呼びかけもした。話し合いに参加した地域の方々も私と同じような気持ちで努力された。
 こうした外でのイベントの一番の心配事は、当日の天気なのだが、幸いその日は実に快晴だった。
 全コース9. 3キロ、途中2キロ地点の漁港では鮮やかな大漁旗と共に、地元ボランティアの方々による貝汁が振る舞われ参加者を迎えてくれた。
 香良洲海岸、雲出川河口には沢山の潮干狩りの観光客、伊勢湾には漁船が何隻も出て海は大変賑やかだった。

 また空には香良洲の民間飛行場からグライダーが飛来し、海も空も街道ウォークに色を添えてくれた。
 他所から来て下さった方々はもちろん、地元参加者が香良洲の良さを再発見したと大変喜んで感想を聞かせてくださったことが私には何よりの事業成功であったと思っている。ボランティアとスタッフは90人。これも現時点の他地域と比べ凄いことだった。
 行政の方々、特に支所長自らが精力的に行動し、その姿に我々も楽しんで参加協力したので、終わった時ボランティア全員が大きな満足感を味わった。

シェリー・アーンスタインの「住民参加の梯子の8段階」というのを聞く。
 日本でも同様の研究はされていると言われるが、行政が自分達だけでやればどんなにかスピーディーにできるかしれないし、イライラもしようが焦らず段階を追って、根気と粘りが住民を巻き込むには必要であると言う良い例ではないだろうか。
 地区での記念事業が終わった時点では、行政のみの形だけの盛り上がりに欠けた街道ウォークもあった。

協働という言葉をそこかしこで聞く。津市もしきりに垣根を越えて市民に呼びかけてくれるが、私は時々首をかしげたくなる事業にも出くわす。
 先日、市民との協働を目的に元気づくり事業「ささえ愛ひろめ隊」の一環として、地域で活躍されている方々の交流の場を行政が提供して行われたものもその一つだ。
 多くの参加者はいったい何がなされるのかを知らずに日頃の支所とのつながりから参加していた。交流の趣旨が分からないままに名前だけの名刺交換、ゲームと進み、グループごとに分かれ自己紹介で終わった。
 市の担当者はまとめのあいさつを「今後につながる良い交流の場になった」と締めくくった。
 それを聞いた私は全く「???」。
 何人かの人に「次回は参加されますか?」と問うたが、返事は皆さん「いいえ」。高齢者対象の生き生きサロンみたいであったとの感想を漏らした人もいた。
 若い職員が、せっかく一生懸命頑張って催しを進行していた姿を見ているだけに、私には気の毒な思いさえ感じられた。
 市民と協働するとは何をなすべきか―を今一度問いたいとも思う。
 行政のある課では階段を積み上げて、結果協働を成し遂げた課もあるので横断的に連携を取ればもっと良い結果がもたらされたのではないか。

 市民が主体的にできることを移譲するのはいいが、小さな行政とは、行政が主体でやってきたことを市民に協働と言う名の下に、自分たちがなすべき仕事を縮小することなのであろうか。
 残念ながら、私の中ではまだ答えが見つからない。

                   (「UDまちづくりの会」代表)