核心評論
5)【特別立法=米軍用地強制使用】(96年7月2日付)

◎特別立法は必要なのか
 「強権」に反発の沖縄


 沖縄問題をめぐる動きが慌しくなった。
 住専問題の決着で当面の緊急課題が「沖縄」に移ったためだが、基地用地の強制使用を可能にする特別立法の取り扱いをめぐる、政府と与党のきしみも目立つ。その延長線上に、衆院解散・総選挙と政界再編が透けて見える。

奔走する副知事
 自民党の「沖縄県総合振興対策特別調査会」は六月十八日に発足して以来、活発な活動を始めているが、近く社民党も「沖縄総合振興本部」を設置する。ともに、基地問題で強硬な態度を崩さない地元の意向を最大限くみ取って。将来ビジョンの実現を図ろうという狙いがある。
 米軍楚辺通信所の一部用地が四月以降、国の不法占拠状態となって以来、政府部内には来年五月に使用期限が切れる十二施設の継続使用を念頭に、特別立法が避けられないとする声が高まった。
 特別立法を回避する道はただ一つ、大田昌秀沖縄県知事が基地使用のための代理署名と公告・縦覧手続きに応じればいい。「調査会」も「本部」も言ってみれば、沖縄を納得させる方策を考えるものだ。
 沖縄県の吉元政矩副知事は昨年暮れ以降、対政府折衝を頻繁に続けているが、沖縄米軍基地の機能維持を主張する自民党国防関係議員の動きの鎮静化をまず考えたようだ。このため、沖縄の実態を説く一方、具体性は欠けるが、将来ビジョンとなる「国際都市形成構想」の説明に奔走した。
 官邸や外務省、政党と公式、非公式な折衝を続けて政府の出方をうかがう一方、在日米大使館や米国務省筋、国防総省筋とも水面下の連絡を取った。米側との感触が、日本政府の出方を事前に知るうえでかなり役立っている、と本人も認めている。
 自民党の調査会、と社民党の振興本部設置は、副知事の行動が実を結んだ、と言ってもいい。
 その調査会の加藤紘一会長(幹事長)と野中広務事務総長(幹事長代理)はこのところ、基地強制使用の「特別立法」に否定的な発言を続け、社民党の村山富市党首や同党幹部も反対を繰り返している。こうした発言に梶山静六官房長官は強く反発、政府・与党内には明らかに「対立」の構図が浮き彫りになっている。

実態無視した代替地案
 特別立法の動きに沖縄が反発しているのは、米軍がかつて基地建設のため「布令」「布告」を発令し、住民を追いやった歴史的事実が鮮明に残るからだ。敗戦後の軍政下で行われた強権発動を連想させる特別立法が、平和時の今なぜ必要か、ということだ。
 そんなことを分かろうとしない政府が強引な特別立法をちらつかせて、沖縄の理解を手にしようなどと考えること自体が
間違っている。
 仮に秋の臨時国会に提案されるようなことになれば、政府と沖縄の対立は決定的になるだろう。大田知事が、九月にも予想される代理署名訴訟の最高裁判決に従う意向を示しているのは、特別立法阻止を考えた上での「シグナル」と見るべきだ。
 自民党調査会の加藤会長や、調査会の実質的な仕切り役となる野中事務総長が「法が先にあってはならない。沖縄の心を解きほぐすことから始めるべきだ」と強調している。
 県首脳部の気持ちを和らげるには、普天間飛行場の代替施設の候補地となっている場所を取り下げ、県が許容しうる別の案を検討することが必要だ。
 吉元副知事は、有力候補地になっている嘉手納弾薬庫地区について「代替地に不向きなことは米軍が一番知っている。(日本の)役人が机上で考えた案だろう」と推測する。
 防衛庁幹部は、米国との友好を維持するため「相手が何を欲しているか考える」と言う。普天間飛行場全面返還の条件となった代替施設の建設に、こうした日本側の対米配慮がなかったか。
 有事対応の重要さは否定しないが、そのために肝心の沖縄の意向を無視しては、安保の機能が逆に損なわれる。反基地感情が抑えきれなくなって噴き出す反米感情がどんな事態につながるか、政府はもっと知る努力をした方がいい。大田知事も「反安保」とは言っていないのだから。

 (共同通信編集委員 尾形宣夫)