☆注目されていた名護市民投票は、政府が全力投入したにもかかわらず移設反対派の勝利で終わった。名護市民の意思表示であるが、一方で、基地問題で首相官邸と互角の勝負を続けてきた吉元政矩副知事の再任を沖縄県議会が否決した。基地問題は一段と混迷の度を加える。


核心評論「試練の大田知事」

◎参謀欠き、苦渋の決断へ
  正念場の大田県政


 この二日間ほど政府の耳目を沖縄に引き付けたことはなかったように思う。
 政府は名護市の海上ヘリ基地建設に向け国政選挙並みに大量動員したが市民投票に負けてしまった。そして二十二日には、普天間飛行場返還を柱にした沖縄米軍基地の整理・縮小計画と経済振興策をめぐって政府との折衝で強烈な存在感を見せた吉元政矩前副知事の再任提案が沖縄県議会で再度否決された。

▽崩れたシナリオ

 政府が描いたシナリオは二つとも崩れたのである。今回の事態で政府が最も懸念しているのは、恐らく日米友好関係への影響だろう。
 市民投票は、普天間飛行場返還の条件となった海上ヘリ基地建設に、有効投票者の過半数が反対の意思表示をした。反対票は全有権者数の半分には満たなかったが、政府が前面に出た建設賛成派へのてこ入れを敗ったことは、基地に対する沖縄県民の独特な感情を率直に表したものである。
 日米両国間で基地の整理・縮小に合意しながら、合意の目玉とも言える普天間飛行場の返還について、肝心の日本側の対応が十分でなかったことへの米側の不満は隠せない。
 日米安保条約の再定義となった昨年の日米安保共同宣言と日米防衛強力のための指針(ガイドライン)見直しはできたが、具体的な合意事項で食い違いが表れるようでは、双方の信頼関係にひびが入らないとは言えない。
 一昨年秋の米海兵隊員による少女暴行事件以来、橋本龍太郎首相は「沖縄問題」を内閣の最重要課題に位置付け、基地の継続使用について大田昌秀知事らと真剣な交渉を続けた。同時に政府は沖縄の経済振興を確約、基地問題の軟着陸を図った。

▽官邸とのルート

 大田知事の名代として対首相官邸の公式、非公式折衝に当たったのが吉元前副知事である。
 副知事の交渉のやり方は地元の頭越しと映る側面があったことは否めないが、政府首脳らに沖縄問題の深刻さを植え付ける効果があったことも事実だ。
 黒子役として積んだ官邸とのルートは、知事の県政運営上欠かせない。だから、知事は県の十月議会に任期切れが迫った吉元氏の再任を提案。否決されながら、再度、再任を求めたのである。
 大田知事は一年後に任期が切れる。知事が三選に打って出るかどうか分からないが、残された任期中で基地問題の打開の道が開けるか否かは吉元氏にかかっていたのは間違いない。
 仮に今回再任が認められたとしても、一度は否決された吉元氏に従来の戦術が可能とは思えない。だが、知事は海上基地問題を含め、沖縄の将来像の手掛かりをつかむにはどうしても吉元氏が持つ人脈の活用と知事の盾としての存在が必要だった。
 今、大田知事はその参謀を失い、知事自身が吉元氏の役割を果たさなければならなくなった。
 名護市民投票は「条件付き」を入れて賛否の差は約八ポイント。政府や基地建設関連業界の力を動員した「作られた世論」の側面はあるが、海上基地容認派の善戦も否定できない。

▽論議の再燃必至

 吉元氏の再度の再任否決は知事に対する議会の「不信任」とも読める。市民投票結果に勢い付く県議会与党は知事に海上基地建設に反対するよう攻勢を強めるだろう。
 名護市の比嘉鉄也市長は大田知事に基地建設可否の判断を求め、知事が判断を避けた場合は自ら最終判断を下すと言う。
 知事は身内の与党や支援団体の動向を勘案しながら最終判断を迫られる。いずれの判断をするにしても、沖縄県民の世論を沸騰させ基地問題を再燃さずにはおかないだろう。

(共同通信編集委員 尾形宣夫 07年12月23日付)