評論企画

13)【沖縄―この落差】(3回続きの〔下〕「基地負担の溝」)=97年4月12日付=


☆本土復帰25年を目前にした沖縄の実態を探った連載企画。

◎反映されぬ地元の意向
 「予防外交」の多角的努力を

 「本土の人は広大な米軍基地に驚き、何とかしなければと言う。だが、本当に見て欲しいのは基地周辺にひしめくように並ぶ一般の住宅です」
 本土復帰から二十五年、植民地時代の「保留地」を連想させる現状にこそ目を向けるべきだと旧知の元琉球政府幹部は言う。その延長線上に基地問題や経済振興策がある。

▽退路断った首相
 今月二日、沖縄県宜野湾市で営まれた元県知事、屋良朝苗氏の県民葬に参列した橋本龍太郎首相は、「先生が目指された沖縄の実現に全力を尽くすことをお誓い申しあげます」と追悼の辞を締めくくった。政治の師と仰ぐ佐藤栄作元首相が手掛けた沖縄返還の残された難題の基地問題に「真正面から取り組む気概」(有力財界人)はあったが、県民の受け止め方は違った。
 首相は二月下旬以降、相次いで来日した米政府要人との会談で、基地機能の現状維持を約束。沖縄入り直前には、焦点の米軍用地特別措置法(特措法)改正を正式に表明している。法改正で沖縄側の反対意見に耳を傾ける道を断ち、県民葬に臨んだからだ。
 特措法改正案は圧倒的多数で可決、成立する見通しだ。政党レベルでは政局への思惑が見え隠れした。反対した社民党の行動も分かりにくい。事実上、沖縄だけに適用される法改正に、地元の意見が反映されないことへの屈辱感は覆うべくもない。
 不幸なことに「国政とはしょせんこんなもの」(社民党沖縄県連首脳)と印象付けてしまった。敗戦から今日まで辛酸をなめ尽くしてきた沖縄の原体験からすれば許されない決着だった。衆院の安保土地特別委員会への出席を大田知事が断ったことにも国政への不信感がにじむ。

▽基地機能維持は日本の義務
 米政府は、五月十四日で使用期限がくる嘉手納基地など沖縄の十二米軍施設の合法的な継続使用の手続きは「日本の国内問題」と突っぱね、沖縄の基地機能の保持は日米安保条約上の義務、と強く迫っている。
 背景には流動化する東南アジア情勢や朝鮮半島の状況がある。だが、中長期的に見た場合、経済成長の著しいアジア地域での米国のプレゼンスを確保する足場としての日米安保、という側面が色濃く浮かび上がってくる。
 防衛庁幹部によると、日米安保には二つの側面がある。一つは欧米諸国と友好関係を維持するための「パスポート」。二つ目は、米国とアジア諸国との関係を保つための「接着剤」だ。二つの役割を果たす上で、沖縄は欠かせない存在という論法だ。

▽不測の事態が避けられるか
 それ程重要な基地機能が地元県民の支持なくして維持できるのか。復帰前の一九七〇年十二月の「コザ暴動」や一昨年九月に起きた米兵による女子小学生暴行事件後の緊張状態は、基地の島に充満した憤懣が爆発、基地のあり方を問うたものだ。
 特措法改正で米軍基地はこれまでどおり合法的に存在し続けることが保障されようが、基地に絡む不測の事件、事故が起こらないとは限らない。法改正は政治、外交的に基地の継続使用を可能にしただけで、米軍基地の危うさはなくなっていない。
 万が一にも、不測の事態が起きれば、その時点で米軍の存在自体が困難になるだろう。
 日米安保を容認する立場から言っても、沖縄米軍の海兵隊問題は避けるべきではない。地元が最低限認めることができる姿勢を政府が示すことが、日米関係を阻害するのだろうか。
 同時に、軍事的側面だけでなく、紛争が懸念される地域の安定と平和に貢献する「予防外交」に比重を移した多角的な努力が必要だ。
 それがなければ、アジアの一員としての資格も問われかねない。

 (共同通信編集委員 尾形宣夫)