核心評論・社説

【特措法改正】(97年4月17日、18日付)

☆本稿は17日付の核心評論として送信したが、一部加盟紙は
「特措法」成立を待って「過去形」に差し替え翌日の18日付社説として掲載。

◎政治の「沖縄離れ」を避けよ
 振興策に政治力が不可欠



 沖縄の米軍用地の継続使用を可能にする米軍用地特別措置法(特措法)改正案は十七日、参院本会議で可決、成立する。
 当面する基地使用問題の決着で、政局は今秋の自民党総裁任期切れに向け政界再編をにらみながら、中央省庁再編の行政改革が焦点となるだろう。
 この先、沖縄側が強く求めている基地機能の縮小や経済振興策などの積み残された課題が、どう進展するのか注目しないわけにはいかない。

 特措法改正に当たり、衆院の安保土地特別委員会は基地の整理・縮小、米軍兵力構成の継続協議、沖縄振興策などを付帯決議した。
 だが、沖縄を「狙い撃ち」にしたとしか思えない改正案を圧倒的多数で成立させることへの沖縄のわだかまりは消えない。とても「一件落着」とは言えない。国会は決議で自らを正当化すべきではない。
 政治の「沖縄離れ」が最も心配されるのは振興開発策だ。
 大田知事が基地強制使用の代理署名を拒否して以来、政府首脳や自民党首脳は経済振興面で強力な後押しをすることを再三表明。具体的措置として前年度予算で五十億円の特別調整費を計上した。
 与党の自民、社民、さきがけ三党が十日合意した自由貿易地域の強化・拡充など八項目は、「一国二制度」的な大胆な改革を目指し年内に結論を得る段取りという。だが、特措法改正のための与党の足並みをそろえるためのにわかづくりの感があることは否めない。

 合意は抽象的な項目だけで具体策は関係省庁が詰めることになるだろう。気になるのはこれからだ。これまでも幾多の改革が叫ばれながら、掛け声倒れに終わっていることを考えると安心はできない。
 政治の沖縄離れはその不安を大きくする。決してあってはならないことだ。
 沖縄に対する台湾の関心が、最近、急速に高まっている。台湾立法院の与党と野党議員の視察団が相次いで訪れ、沖縄への投資や経済交流について大田知事や地元経済界と積極的に意見交換している。
 台湾から沖縄への直行便開設の打診から、税制、金融機関の金利水準や外貨預金が可能かどうかなど企業活動に直結する詳細な質問が多く、中には「知事に権限はあるか」との質問もあるという。
 地元経済界首脳によると、台湾の関心が高まっているのは、一つは香港返還後の対応をどうするか。もう一つは、日本政府首脳が沖縄と台湾、中国・福建省を結ぶ「蓬莱(ほうらい)経済圏」に言及していることが背景にある。
 そして、「返還後の香港には台湾経済人は期待していない。経済は情報が大切であり、情報のないところではビジネスは発展もない。彼らは(投資先を)模索している。沖縄もその対象の一つだ」と話している。
 台湾が期待しているのは「自由な沖縄」であって、制約が多ければ見向きもしない、と言う。

 本土復帰から二十五年、沖縄には総額五兆円の財政資金が投入され道路などの社会資本の整備は進んだが、産業振興にはつながっていない。
 那覇空港近くの米軍港に隣接する「沖縄自由貿易地域」は、沖縄振興の柱として一九八七年末に動き出したが、制約が多いことが災いしてジリ貧状態が続いている。
 国内唯一の自由貿易地域が名実ともに「自由」を得て機能するには、制約から解き放つしかない。思い切った規制緩和が答えを出すだろう。
 「一国二制度」的な対策は、想定されるその他の振興策にも当てはまる。それを可能にするのは揺るぎない政治の姿勢である。

 (共同通信編集委員 尾形宣夫)